奴隷から解放された黒人が、元主人に宛てた痛快な「手紙」

1864年、アメリカではそれまで奴隷として扱われていた黒人たちが、リンカーンの奴隷解放宣言により長年の奴隷生活から解放され、自由を手にしました。

ショーン・アッシャーさん編集の『注目すべき125通の手紙 その時代に生きた人々の記憶』に掲載されているこの手紙からは、アメリカの人種差別問題のリアルが伝わり、多くの歴史的価値のある情報を得ることができます。

元奴隷のジョードンが、元主人に対して正当な報酬を請求するくだりでは、痛快さすら感じさせてくれる内容になっています。

解放された彼らが求める
本当の自由

オハイオ州デイトン、1865年8月7日

元ご主人、P・H・アンダーソン大佐、テネシー州ビッグ・スプリング

 

拝啓

 お手紙受け取りました。このジョードンをお忘れになっていないとわかり、嬉しく思います。また、誰よりも良い待遇を約束してくださり、私が戻って再び一緒に暮らすよう望んでおられるとのこと、ありがたいことです。

私はよくあなたに不安を感じていました。北軍がとっくにあなたを絞首刑にしたと思っていました。あなたの家にかくまわれている南軍兵士が見つかっていましたので。あなたがマーティン大佐の所に行き、仲間に見捨てられ厠に残っていた北軍兵士を殺させたという話は伝わっていないようですね。

私は今までに2度、あなたに発砲されましたが、あなたが傷付いたという話は聞きたくありません。まだ生きていると知って嬉しく思っています。長年暮らした家に戻り、ミス・メアリーやミス・マーサ、アレン、エスター、グリーン、リーと再会できたらと思います。

この世では無理でも、もっと良い世界でまた会えるよう願っている、と彼らにお伝えください。私はナッシュビル病院で働いていたとき、あなたをはじめ皆さんに会いに戻ろうと思っていましたが、ヘンリーはチャンスがあればあんたを撃つつもりだと近所の人から聞いてやめにしました。


 待遇を良くしてくださるとのことですが、具体的にどのようなものか知りたいです。私は現在こちらでまずまずの暮らしをしています。月に25ドル、食料も衣類もあり、マンディ──こちらではミセス・アンダーソンと呼ばれています──には居心地のよい家があり、子どもたち──ミリー、ジェイン、グランディ──は学校に通い、よく勉強しています。グランディには説教師の才があると先生方は言っています。日曜学校にも通い、マンディと私も定期的に教会に行っています。

皆には親切にしてもらっています。テネシーでは「ああいう有色人種は奴隷だったんだ」と人が言っているのが聞こえることもあります。子どもたちはそういうことを聞くと傷つきますが、テネシーでアンダーソン大佐に仕えるのはけっして不名誉なことではないと言って聞かせています。かつての私のように、あなたをご主人と呼ぶのを誇らしく感じていた黒人は多かったと思います。給料はどのくらいか書いていただけますと、戻った方が良いかどうか判断できます。 


 戻ったら自由を得られるという点については、私にとって何も得るものはありません。1864年にナッシュビルの陸軍憲兵総監部から自由の身分を証明する書類を受け取っています。マンディはあなたが私たちを正当に、そして親切に扱ってくださるというなんらかの証拠がなければ戻るのが恐いと申しております。

そこで、私たちがあなたにお仕えした期間の賃金を送りいただくようお願いし、あなたの誠意を確かめることにいたしました。これにより、私たちは昔のことを忘れ、赦し、今後はあなたの正義と友情を信じられるようになります。

私は32年間あなたに誠実にお仕えしました。マンディは20年間です。私は月25ドル、マンディは週2ドルで計算しますと、合計1万1680ドルになります。これに今まで支払われなかった期間の利子を足し、あなたが買ってくださった私たちの衣服費、私のために医者を3回呼んでいただいた費用、そしてマンディの抜歯代を差し引いた金額を、私たちは当然ながらいただく権利があります。このお金をアダムズ・エクスプレスで、オハイオ州デイトンのV・ウィンターズ様気付でお送りください。

過去の忠実な労働に対する賃金を払っていただけない場合、私たちは将来的なあなたの約束をあまり信じることができません。あなたやあなたのお父様方が私や父に対し、なんの報酬もなく、私たちを何世代にもわたり働かせてきたという不正行為に、神様はあなたの目を開かせてくださったと信じています。

こちらでは毎週土曜日の晩に給料を頂いていますが、テネシーでは給料日というものがありませんでした。黒人は馬や牛と同じような扱いを受けてきたのです。雇った労働者の給料をだまし取る者はその責任を取らされる時代がいつかきっと訪れるでしょう。


 この手紙の返信には、娘のミリーとジェインが安全に過ごせるかどうかもお書き添えください。2人とも成長し、今や美しい女性となりました。あのかわいそうなマチルダやキャサリンのことはご存知と思います。私の娘たちが若く邪悪な主人に暴力をふるわれ、辱めを受けるくらいなら、一家ここに残って飢え死にした方がましです。

また、近所に黒人の子どもが通える学校があるかどうかも教えてください。子どもたちに教育を受けさせ、立派な習慣を身につけさせることが、今の私にとって切なる願いなのです。


 ジョージ・カーターによろしくお伝えください。あなたが私に向かって発砲したとき、ピストルをあなたから取り上げてくれて感謝している、と。

 

あなたのかつての使用人、
ジョードン・アンダーソンより

奴隷ではなく
ひとりの人間として

待遇を具体的に提示し、安全を保証してくれれば戻るという内容の手紙ですが、全くその気がないことは誰が読んでも明白です。言葉だけで「待遇を良くするから戻ってきてほしい」と言われても何十年にも及ぶ奴隷扱いを忘れることができないのは当然です。

ジョードンが元主人に対して「対等の立場」に立って報酬を請求したこの手紙は、黒人たちの新しい立場を象徴しているものとして数々の新聞に掲載されました。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。