祖母のドーナツが教えてくれた「人生で大切なこと」
これはChad Cryderさんが、幼い頃に祖母と過ごした時間を振り返った話。大好きな祖母特製の、大好きなドーナツ。その作り方を教わる中で、ほかにも大切なことを数多く学ぶことができたと言います。
祖母が作ってくれた
最高においしいドーナツ
母は、私が知るかぎり世界一勇敢な女性。離婚がまだ今ほど受け入れられていなかった時代に、父に中指を立てて自らその虐待的な関係を絶ったのです。幼い男の子2人を連れて女手一つで生活を成立させるのは、とても勇気と活力が必要だったことでしょう。
「女性の唯一の仕事は、妻になり母になること」と社会に言われ続けたこと、そして私の兄が脳に障害を持って生まれたことなどを考えると、父親はいないほうがマシだと決めた母は、めちゃくちゃカッコいいロックスターなわけです。
毎年、夏休みになると、母は3ヶ月ほど私と兄をフロリダの祖父母の家に預けるようにしていました。私たちが夏の冒険へと出かけるときに、母がよく泣いていたのを覚えています。それがどういう涙だったのかは、いまだにわかりませんが。
祖父が運転する車の後部座席で、私たちは祖母とトランプをしたり、これから私たちに教えようとしている料理の話などをしました。ディズニーランドに行く予定や、陶芸、刺繍など手芸の計画を立てたりもしました。夏休みにつまらない時間など、一秒たりともありませんでした。
初めてフロリダに行った時、起きると祖母がドーナツを作っていました。ドーナツはお店でしか買えないと思っていた私にとって、それは最高の出来事。私がドーナツの作り方を尋ねると、祖母は料理方法だけでなく、掃除の仕方も教えてくれました。本当に嬉しかった。祖母の料理の腕は最高だったし、それは祖父の体型を見れば一目瞭然でした。
毎年繰り返される夏休みを経て、料理やお菓子作りに対する私の想いは強くなっていきました。台所にいることが心地よく、大好きな時間。料理は楽しく、冒険的で、興味深いものでした。お菓子作り以外に、レシピというものは存在しなかったと言ってもいいほど。
料理を通じて学んだ16のこと
私の13歳の誕生日目前に、祖母が亡くなりました。その前の夏休みが台所で祖母から学ぶ最後の機会となったのでした。手作りドーナツ、アップルソース、グレープゼリーは二度と味わうことができません。
しかし、祖母から受け継いだものは私と共に生き続けます。
勇敢であること。興味を持ち続けること。失敗してもいいと思うこと。むしろ、失敗は美味しいかもしれない。完璧はつまらない。スパイスは良し。試すこと。直感を信じること。良い夫は料理のできる夫。料理をすると節約になる。料理は楽しい。笑い声は料理を美味しくする。家族は大切。食べ物は愛。音楽と踊りは魂の食べ物。ぎゅっと抱きしめると心が温かくなるということ。
祖母と過ごしたあの長い夏──。私は人生において大切な教訓を、知らず知らずのうちに台所で学んでいたのです。