これが、自分の母親だったなら…そう考えながら読んでください。

ホテルがアタシの人生のすべてだったの。

妹の葬儀にだって顔を出さなかった…、そのくらい仕事が大事だったからよ。

アンタの父親に初めて会ったのもホテルの宴会場。

アンタたち兄弟を今日まで育てることができたし、キャリアだって6階級も上がったんだから。

なのにね……アタシ、もう用無しだってさ。クビになっちゃった。これだけはアンタにどうしても伝えとこうと思って。…じゃあね。

留守電のメッセージはそこで終わりました。 

ホテル勤続50余年の母には、
仕事が“すべて”だった。

これは、女手ひとつで2人の子どもを育て、ホテルの客室スタッフとして50年近く働き続けた75歳の母親(レベッカ)が、突然の解雇を告げられた事実を息子(レジス)の電話に残したときのメッセージです。

自分を犠牲にして、子どもたちに何不自由なく尽くした母。人生のほとんどの時間を仕事に費やしてきた彼女が、突然にしてそのすべてを奪われた…。

「生き甲斐と言えるものが仕事しかなかった」、もしかしたら落胆をとうに通り越し、放心に近い状態で、応答のない留守電に向かい、受話器を置いたのかもしれません。

メッセージを聞いたレジスは、すぐさま母のいるボストンへと向かいました。どんな慰めの言葉を用意していたのかは分かりません。けれど、彼はある決意と、希望を失いかけていた母への「提案」を用意していました。

働くことから解放されたとき
母は初めて人生の意味を知った

MY “DUTY-FREE” BUCKET LIST

1.ヒップホップダンスのレッスンを受ける
2.スカイダイビング
3.バーモント州で乳しぼり体験
4.Instagramのアカウントをつくりたい
5.ロンドンブリッジの上からペニーを放り投げる


レジスの提案は、母のためのバケットリストをつくること。働き詰めの毎日で、これまで夢のまた夢にしか思えなかった、人生で一度は経験してみたい、やりたいことのあれこれ。それをリストに書き上げたとき、レベッカに12の新たな希望が浮かび上がってきたのです。

それをひとつずつ叶える旅、これが息子の提案。しかも自分と一緒に。彼はこれを「DUTY-FREE」と名付けました。あえて訳すならば“義務からの解放”。働くことしか知らなかったレベッカに、いま初めて「自由」という選択肢が。

母の願いを叶えたい。
息子とめぐる第二の人生

リストのひとつめは、ずっと習ってみたかった「ヒップホップダンス」。それも、ただのレッスンじゃなかった。母の願いは、トニー賞最多11部門を受賞したブロードウェイの超ヒットミュージカル『Hamilton(ハミルトン)』の出演ダンサーから直接レッスンを受けること。

牛の乳をしぼり、絶景を目に焼き付け、一つひとつ夢を叶えていくレベッカ。娘の孫たちに会う願いも叶いました。そしてリストのひとつであり、彼女にとってどうしてもいかなければならなかった場所、実の妹の眠る墓前に花をたむけ、手を合わせることができたレベッカ。

新しい人生のモットーは、“レベッカ”というアタシ自身として生きること。これまでずっと誰かのために生きてきたけど、ここからはアタシがやりたいように、自分に正直に生きるって決めたの。

人の子ならばいつかなんらかのカタチで、誰でも母親のために立ち上がる必要がある、とレジスは強調します。「こんなに生き生きとした日々を見たことがなかった」、75歳になる母との旅路は、息子にとっても新たな絆の深まりを感じるものだったに違いありません。

2人の夢はまだ始まったばかり

さて、レベッカの第2の人生はまだ始まったばかり。バケットリストもようやく5つが終わったところです。

この先、スカイダイビングにチャレンジすることも、ボストンマラソンのコースをラン、ではなく歩ききることも。ゆっくりひとつずつ、彼女のペースでInstagramに公開していくことが当面の目標なんだそう。

ふたたびリズム良く動き出した人生の針を、最高のパートナーが二人三脚でアシストする。親子水入らずの夢の旅がいつまでも続きますように。

こう結ぶことができれば、それこそ最高の親孝行……ですが、現実はそう甘いものでもないようで。

いま、レベッカはひとりボストンでの生活を続けていくために、この年齢にしてなお、再就職先を見つけるべく“就活”に励んでいるそうです。それでも、「もう下を向いてはいないよ」と、息子は偉大な母のこのストーリーを映画化することでサポートを始めました。

いくつになっても母は強し。もうこれは万国共通ですね。 

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