【Vol.2】ロシア人は、夏のバカンスを「ダーチャ」で過ごす
田園地帯の小さな別荘で、家族や友人とともに週末を過ごす。ロシア人にとって「ダーチャ」は都会を離れて過ごすセカンドハウス。ゆえに、自分たちのライフスタイルにあったカラーを色濃く反映させているようです。
今回はソビエト時代と現代のダーチャを見ていきましょう。(Vol.1はこちら)
DIYで自分たち色のダーチャを
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ソビエト時代のダーチャは、まさにDIYプロジェクト。
モノもお金も不足していたこの時代、人々は創意工夫に励んだ。金属を鍛えて作ったポーチ飾りや、彫刻を施したコーニスや窓枠飾り、解体される革命前の建物から持ち出した色ガラスの窓枠などが、装飾的要素としてしばしばダーチャ作りに取り入れられている。
手に入るものはなんでもダーチャに使う、という心意気だったようで、古いペットボトル(苗を覆ったり、温室を作るため)や、ヨーグルトの空容器(苗を植えるため)まで活用していたというのだから。古いバスのドアを使って庭にシャワールームを作った例もあるようだ。現代のDIYは趣味の要素が強いが、当時は必要に迫られてのことだったのかもしれない。
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こちらの小さなダーチャでは、古い《ジグリ(ラーダ)》の車体が庭のオーナメントに。
冬場のダーチャは、一時的に使わないものや流行遅れになったものを保管しておく場所となることが多かった。レースの布地や、古いウィーンの椅子(曲木椅子)、装飾が施された給茶器(サモワール)、引き出しやキャビネットなど、「おばあちゃんの時代」を象徴するアイテムがしまい込まれた。
現代になってそれを引き継いだ人たちは、アンティークショップに行かずとも個性のある調度が手に入るということで、捨てられなかったことを感謝している様子。
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モスクワ近郊の大きなテラス付きのダーチャ。インテリアデザインを手掛けたのはタチアナ・イワノヴァ さん。ダーチャの楽しみといえば、家族や友達と屋外のテーブルでお茶を飲む夕方のひととき。
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近年のダーチャは、フレキシブルで個性豊か。
現代では、設計も敷地の使い方もオーナーの自由にできる。チェーホフのような田園生活を再現する人もいれば、科学論文を執筆するための仕事場としてダーチャを建てる人もいる。
また、畑仕事に専念する人も多い。現代ロシアでは家の大きさが制限されることもなくなったが、本物のダーチャはあまり大きく作るべきではない、というのが暗黙の了解だ。そのような建物は、ただ都会のアパートメントを大きくしたようなものと捉えられる。
そんなわけで、今も小さな木造の家屋や村の暮らしが愛され続けている。古いダーチャを改装して再生することも多く、歴史的なダーチャをモデルに新しいダーチャを建てる人もいる。
現代のダーチャ4選
次は、そんな現代のダーチャを4つ見てみよう。
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01.
歴史を受けつぐダーチャ
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オーナー:ヤコヴェンコ家(1954年~)
所在地:サンクトペテルブルク近郊の町、コマロヴォ
規模:161.3平方メートル(ベランダ含む)
注目ポイント:アレクサンドル・ボロディンはここで戯曲『秋のマラソン』(のちに映画化された)を執筆した。
1913年より前は、コマロヴォはケロマーキと呼ばれ、サンクトペテルブルクの住民たちに人気のエリアだった。軍医で教授のウラジミール・ヤコヴェンコ氏は、1954年にこの土地にダーチャを与えられた。写真は1958年の様子。
「このダーチャは1950年代末期に建てられました。最近の15年間で電気や水道などのシステムはすべて新しくしましたが、家自体は建て直していません」
と、現在のオーナーである ウラジスラフ・ヤコヴェンコさんは言う。
「もとのオーナーがロシア海軍の主席軍医だったので、温かいバスルームが用意されていました」
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「ダーチャ建築に見られる独特なところは、基準に従いながらもできるだけ居住空間を広く確保しようとした努力の現れなんです。居住空間は65平方メートル以下に収めなければなりませんでしたが、この家自体はその2倍以上の大きさになっています。だから、玄関ポーチの中央からホールへとつながる廊下もひろびろと明るいんですね」
と説明する。
当時のダーチャを作る大工さんたちは、どうにか広いスペースを確保しようと技を講じていたようだ。国の規則では、廊下やエントランスホールは面積に含まれていなかったため、そういった部分を広く設計することもあった。
02.
生まれ変わった、昔ながらのダーチャ
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所在地:モスクワ地域規模:180平方メートル建築家:ユリア・ネステロヴァ
革命以前には、帝国専属の写真家だった人物の一家が所有していた、モスクワ近郊の木造ダーチャ。
春になると、たくさんの知識人たちがここに集まっていた。現在のオーナーは、チェーホフの時代のような古いダーチャを手に入れて、時間を気にせずポーチでお茶を飲んだり、庭を散歩したりする生活をずっと夢見ていたと言う。
メザニン、ポーチ、窓枠飾りの付いたこの家を見て、オーナーは一目惚れしてしまった。改装を担当した建築家のユリア・ネステロヴァさんには、ノスタルジックな雰囲気と外観を残しつつ、インテリアをアップデートしてもらうよう依頼した。
外壁は修繕し、ポーチやバルコニーの古い窓ガラスもそのまま残した。ユリアさんの判断で、内部は仕切りを取り壊して、部屋を広く確保している。
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全体のインテリアは現代的だが、ダーチャの長い歴史をヒントにして注意深くデザインされている。控えめなペンキの色づかい、アンティークの家具、刺しゅう入りのカーテン、繊細なテーブルクロスなどのディテールが、20世紀初頭を思わせる雰囲気を作り出している。
03.
モダンなDIYダーチャ
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オーナー:デザイナーのヴィタリー・ジュイコフ所在地:イジェフスク地域規模:36平方メートル(テラスは含まない)
ヴィタリー・ジュイコフさんの住まい兼仕事場があるのは、イジェフスクの町からほど近いカマ川沿いの場所。夏のあいだは、モスクワを離れてここに住んでいる。
近くの村には都市への移住者が放置していった家がたくさんあり、ジュイコフさんは空き家を回って古い木材や家具、ドア、窓枠などを集め、それを利用して、自身の家具ビジネス〈メイド・イン・オーガスト〉で扱う家具を製作している。
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「私のダーチャにあるものは、見た目はちょっと粗野かもしれませんが、すべてシンプルで素朴な素材から作られたものです。テクスチャ―の粗さや、ちょっと不完全なところから、いい味わいが生まれるんです」
とジュイコフさんは言う。
「ここに来て、しょっちゅう何か作ったり改装したりしています。古い板や窓枠などを見つけて家に取り入れるたび、新しいディテールになります。例えばこの写真は、木材を保管している棚なんですが、空き家で見つけた飾り彫りのある窓枠で作りました。
このあたりには、人が住まなくなった集落がたくさんあって、取り壊される寸前の家がたくさんあるんです。おもしろいアイテムを見つけて、重機の下からどうにか救い出すようなこともありますよ」
ジュイコフさんのダーチャは、毎年変化しているという。
04.
古くからの避暑地にあるダーチャ
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所在地:モスクワ近郊、クラトヴォ規模:180.6平方メートル(テラスは含まない)建築家:〈アッセ・アーキテクツ〉のエフゲニー・アッセ、グリゴール・アイカジアン、アナスタシア・コネヴァ
美しい松林に囲まれたこちらのダーチャがあるのは、モスクワ近郊の村クラトヴォ。ここは古くから人々が夏を過ごしに来る場所だった。
家の建物は2つの階と屋根裏部屋という構成で、梁や桁には接着集成材を用いている。1階と2階にある屋外テラスは、昔のモスクワやサンクトペテルブルクにあったダーチャのような、白い透かし細工をあしらったテラスを思い起こさせる。
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現代的なダーチャでも、古くからの伝統に根ざしていることは変わらない。そして、いつの時代もダーチャでいちばん大切なのは何かというと、みんなと一緒に過ごす日々の生活だ。
多くのロシア人にとって、ダーチャで過ごした時間は、子ども時代の大切な思い出のひとつとなっている。トマトやボタンの花を育てたり、テラスで午後のお茶を飲んだり、バーニャ(ロシアのサウナ)に入ったり、8月にリンゴをバケツいっぱいに収穫したり……。
家庭の幸せと、子ども時代の楽しい記憶、自然の中に帰るよろこびを感じさせてくれるのが、ダーチャの暮らしなのだ。