元恋人の記憶は、「声」から失われていくらしい。
昔付き合っていた人の名前を、もう思い出せないと言う人がいる。
よほど交際期間が短かったのか、あだ名で呼んでいて本名を忘れてしまったのか。どちらにしても、ある意味すごいなと思って聞いていた。
名前まで忘れてしまったら、逆になにを覚えているんだろう。名前を忘れても、表情や、立ち振る舞いや、夜の電話のことは覚えているのだろうか。
━━きっと、一生忘れない。
恋が終わった瞬間は、簡単に、でも、心の底から、そんな根拠もない確信をする。失恋に酔いしれているのとも違くて、ただほんとうに、その時は思うのだ。ごめんねとか、ありがとうと一緒に。
当たり前だけれど、時が経てば当時を思い出して、涙を流すことはなくなる。少し心は痛んでも、眠れなくなるような夜はもう来ない。
「忘れるわけない」と思っていた人の記憶も、ゆっくりと、気づかないうちに、静かに消える。
最初に忘れてしまうのは「声」
最後まで覚えているのは「匂い」
今日みんなに聞いてみたいのは、この説は本当か?ということ。
記憶と五感を結びつけると、最初になくなるのは「聴覚に残された記憶」からだってよく言われている。そして、一番記憶に残りやすいのは「匂い」。
これには根拠があって、嗅覚は五感のなかでも唯一、脳の<記憶と感情を処理する部分>に直接繋がっている。他の感覚は、大脳新皮質という場所に立ち寄らなくちゃいけないんだって。細かく説明すると難しい話になってしまうから、興味のある人だけノルウェ-科学技術大学・カヴリ統合脳科学研究所の論文をどうぞ。
そういうわけで、感覚と脳の構造上、匂いは記憶に色濃く残るように出来ている。金木犀が秋の記憶を蘇らせる理由も、お母さんの料理を食べると懐かしくなるのも。今まで思い出すこともなかった奥底にある記憶を、一瞬にしてフラッシュバックさせてしまう。
人間が記憶を失うことについて研究しているAegis Livingは、忘れる順番を聴覚・視覚・触覚・味覚・嗅覚と紹介している。
……数年前に別れた元彼の声を“正確に”思い出せるかと聞かれると難しい。実際の声とはギャップがあるだろう。表情や振る舞いなど、視覚を通した記憶のほうが覚えている自信がある。
で、最後まで覚えているらしい「匂い」。私は今でもよく覚えている。なぜなら、ものすごく彼の匂いが好きだったから。まったく匂いフェチではないけれど、好きな人の匂いって無条件にたまらない。え、そうでしょう?
気持ちが冷めたら、匂いにも惹かれなくなっているのだろうけど。とにかく当時は好きだった。そして、今でもそれに近しい匂いを嗅いだとき、きっとフラッシュバックする。
それぞれの思い出によって変わるだろうけど、私はこの説に頷けてしまった。みんなはどうだろう。しばらく会っていない、元恋人をイメージしてみて。
一番初めに忘れるのは声で、最後まで覚えているのは匂い。共感できる?それとも「う〜ん」?