イギリス政治を見ていると『風の谷のナウシカ』を思い出す

「英国」と聞いて、あなたは何を想像するでしょうか?

ビートルズ、大英博物館、ハリーポッター、ロンドンオリンピック……英国は世界中に様々な文化とその個性を発信しています。その他、EU離脱やスコットランド独立投票などのニュースを思い浮かべる人もいるかもしれません。

多くの課題を抱えながらも、英国の経済状況はここ20年間は右肩上がりです。人口や資源において優位とは言えないはずのこの国が、なぜ国際社会においてこれほど高い地位を維持できるのでしょうか?

少しでもこの問いに興味を持った人におすすめしたい書籍が『現役官僚の滞英日記』(PLANETS)。欧州最古の名門総合大学「オックスフォード」、英語圏最高峰の社会科学研究機関「LSE」の両校に留学した現役官僚の橘宏樹氏が、英国社会の〝性格”に迫ります。

TABI LABOでは、その内容を要約し全7回にわたってお届け。

なぜ、イギリスなのか?

僕がイギリスを留学先として選んだのはなぜか。端的には、

・戦略家・リアリストとしてのセンスの良さの秘密
・伝統的、集団的、組織的なセンスの共有方法

の二点を学びたいと考えたからです。

イギリスは、今日でも先進国・強国・(老)大国とみなされています。国連安全保障理事会では常任理事国。旧植民地国からも、なぜかそんなに恨まれていません。

それどころか「コモン・ウェルス」という52ほどの国や地域と「旧英連邦」というゆるやかな共同体的つながりを維持しています。たとえば「コモン・ウェルス・ゲーム」という4年に1度のスポーツ大会があり、昨夏には71もの国と地域から5,000名近い選手が集まり、盛大に開催されました。ジャマイカのウサイン・ボルトも400メートルリレーで大活躍しました。

それだけではありません。

イギリスはEUとも絶妙な距離感を保ちつつ、ポンドという独立通貨を維持しています。前述のとおり、ロンドンは世界最大の金融センターのひとつで、2013年のロンドン市場での外国為替取引量は世界シェアの40%を占める第1位。本国自身は人口も資源もそれほど豊かではないのに「うまい」世渡りをしているよなーと思っていたわけです。

しかし、その後、僕なりに様々なかたちでイギリスの政治・経済・行政・文化を学んできた結果、今では、単に世渡りが「うまい」国民なのだ、というだけではないと思うようになりました。どういうことかというと、考えてみれば当たり前かもしれませんが、どうやらイギリスだって最初からうまかったわけではないようなのです。

イギリスは本当に世渡りが「うまい」のか?

たとえば、英国史を紐解くと、要所の植民地をピンポイントで押さえていたことにしても、最初からイギリス人の戦略センスや先読みが優れていたというより、むしろ「成り行き」の結果だったりします。最初は広大だった植民地が現地勢力や他国に奪われたり、本当はもっと欲しかったのに一部しか残せなかったりと、必ずしも彼らの思うように物事は運んではいなかったようなのです。

しかし、「それでも、なんとか」状況をマネジメントして栄華を築いたわけです。ですから今では僕は、後から見ると戦略的にうまかったように見えることもさることながら、試行錯誤のなかでそのうまさを絶えず更新しながら、成り行きをマネジメントしていく力にこそ、尊敬すべき英国的思考と行動様式のポイントがあるような気がしています。

それをさらに分解すれば、果敢に挑戦する気風、失敗する力、失敗しても反省フェーズにおける高い集中力・分析力・応用力、そして後から辻褄を合わせてくる力や、前提としてへこたれないタフさ(第二次世界大戦において特に顕著に見られました)といった要素から成り立っていることが見えてくるのかもしれません。

ちなみに、最後の「タフさ」のなかには、失敗は誰かのせいだったということにして集団全体としてはどんどん前へと突き進んでいく気丈さと残酷さのようなものも含まれていそうです。

保守党・労働党という二大政党制のなかで起こる政権交代は、まさにその象徴的なイベント。政権への執着が強力な自浄作用を促すこともあるでしょう。たとえば保守党は、総選挙の直前になるとそれまで権勢盤石に見えた党首でも一気にすげ替えたりします。

僕はそういったイギリス政治の展開から、漫画『風の谷のナウシカ』に登場するキャラクター「ヴ王」の「失政は政治の本質だ」というセリフを思い出します。

先進国「である」ことと、先進「する」こと

僕が2年間の留学で学びたいと思っているのは、この試行錯誤しながら成り行きをマネジメントして「先進する力」です。

インターネット等のおかげで様々な情報が手に入る現在、わざわざ身をこちらに運んで勉強するのは、こうした「先進する」という姿勢や哲学のみならず、それ自体を支える要素や構造を、直接イギリス人と接するなかで具体的に体感して特定し吸収し、できることならそれを日本式にアレンジして日本で再現できないか、と考えるからです。

先進国にはその前を走る国、つまり「お手本」がありません。自分に適切な答えは何か、自分たちで模索して手に入れていくしかないのです。模索という行為には、歴史や他国事例からの学びだけでなく、それらを組み合わせていくイノベーションも含まれるでしょう。

今日の日本も、たとえば少子高齢社会の点で平均寿命、高齢者数、高齢化のスピードの3点で世界一となるなど、課題先進国と呼ばれています。西欧に張り合えるよう「坂の上の雲」を目指したり、戦後の焼け跡からみなが飢えずに暮らせる社会を目指したりと、わかりやすい目標をなんとなく右上方向に共有できた時代はすでに遠くなりました。

日本もまた自分の問題に自分で答えを出していくしかありません。それが本当の意味で、先進国となったということだと思います。

いろんなことがうまくいかなくても、『機動戦士ガンダムUC』のマリーダ・クルスのように「でも、それでも」と言い続けて果敢に試行錯誤していくしかないのだと思います。そして試行錯誤が必要ならば、せめて、より効果的・効率的なものにしていきたい。そのためには、いくつかの条件や要素、構造が必要なのではないか。僕はそれをイギリスから学べないものか、と思っています。

イギリスは長い間、先進国であり続けてきました。そして現代の英国のリーダーたちも、先人たちの遺産を最大限に活用しながら、たとえば、地方分権、テロ対応、EU統合等、国内外に山積みの問題と向き合って、相変わらず必死にやっています。

イギリスにはもしかしたら、果敢であることを当然視する気風や、それを育てる伝統、無責任な文句だけ言うのを排して対案を含む生産的な批判を評価する仕組みがあるのかもしれない。そして、全体の未来のために挑戦して失敗した者にもリスペクトが与えられたり、失敗からの教訓をしっかり整理して次につなげていく制度や仕組みが組織や社会のなかに組み込まれているのではないか―そう想像しています。

渡英してまだ2ヶ月程度しか経っていない今の時点では、これらはあくまで仮説にすぎません。これからのべ2年滞在することでこの仮説がどう破壊されるか、あるいは補強されるのか皆目わかりません。しかしどちらにしても、必ずや大きな学びを得られる気がしています。

橘 宏樹(たちばな ひろき)

官庁勤務。2014年夏より2年間、英国の名門校LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス)及びオックスフォード大学に留学。NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。twitterアカウント:@H__Tachibana

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書籍『現役官僚の滞英日記』(PLANETS)の著者である現役官僚の橘宏樹氏が、自身が名門大学で過ごした2年間の滞英経験をもとに、英国社会の"性格"に迫ります。
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