ハロウィンが終わると、ほとんど日を置かずにクリスマスの気配が漂い始めます。お店にはクリスマスのための新商品が並び、食品陳列棚もクリスマスの食べ物、至るところで目にする広告やクリスマスに関する記事も気配のひとつでしょう。この記事もそうですね。
僕はイギリス人ですが、日本でクリスマスを過ごしたことがあるし、今年のクリスマスも東京にいる予定です。なんせこのシーズンはロンドン行きのチケットが高すぎる!まあ、僕は日本のクリスマスが好きだし今年も楽しむつもりですが、イギリスのクリスマス――とりわけ、食べ物がとても恋しくもあります。
イギリス人やほかの多くのヨーロッパ人にとって、クリスマスの食べ物や飲み物は、ならではの食材が使われたものであり、ならではの味、ならではの香りがするだけでなく、自分たちの文化さえも感じられるものなのです。
だから僕は、たびたびTABI LABOのオフィスで「これはとてもクリスマスっぽい」「これはそうじゃない」と評して同僚を驚かせています。なぜなら日本とイギリスのクリスマスが違うから。
そこでこの記事を書こうと思いました。
それは、恋人と過ごす時間ではないし、お祈りのための時間でもありません。
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イギリスのクリスマスの核心のひとつは、クリスマスが家族のための時間であるということです。恋人たちの時間ではないんです。
これは日本でもよく言われていることですよね。ただし、ひとつ誤解を説いておくと、ほとんどのイギリス人は、決して信心深いわけではありません。だから祈りの時間や宗教行事とはまったく思ってません。僕らにとってクリスマスは、ただただ家族で過ごすための時間なのです。
12月24日と25日には、家族みんなで集まり、たくさんの料理を一緒に食べるのが一般的です。僕は日本の若者たちが、クリスマスにはデートに出かけることを知っていますが、イギリスでは恋人を家に招いて家族と一緒にディナーを食べます。日本人のようなクリスマスデートはとても珍しく、そして難しいことでもあります。
もしもレストランでデートしようと思っても、選択肢は限られます。
イギリスでは、多くのレストランやお店は、24日、25日、そして26日も休業日です。もしもデートでレストランに行きたくなったとしても、その選択肢は非常に少なく、なんとか見つけたとしても、たいていは既に予約されているのがオチでしょう。
ほとんどの家族は、24日までのクリスマスに向けた準備期間で食材を買い揃え、24日と25日は家で夕食を作ります。食べること以上に、作ることに時間がかかります。優雅な食事?それもありますが、調理のために大変な2日間になるんです。そして、たいてい26日はご馳走の残りを食べる1日となります(笑)。ここまでがセットなのです。
蛇足です。とても有名な話ですが、イギリス人がクリスマスに日本に来て最初に大きく驚くことのひとつに、ケンタッキーフライドチキンを家に持ち帰って食べることが挙げられます。イギリスにおける今年のケンタッキーのCMでは「七面鳥はやって来ては去っていくが、チキンはずっとここにいる」というメッセージとなっています。ジョークですね。みんなクリスマスには七面鳥を食べるけれど、クリスマス後にはチキンに戻ってくる、と言いたいわけです。
クリスマスといえば、オーブン料理です。
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しばしば日英家庭料理の違いを語る際に重要になってくるのが、大型オーブンの普及率です。
イギリスにおけるローストは、日本に比べて極めて日常的な調理方法で、僕がクリスマスで連想する料理もほとんどがオーブン料理です。僕の実家では、味が濃厚で、皮がパリパリしているガチョウを食べていますが、たいていの家ではクリスマス当日に七面鳥をローストします。
そして、ガチョウや七面鳥にあわせるのはクランベリーソースではなく、伝統的に赤スグリのゼリーです。鳥肉にスタッフィングと呼ばれるものを詰めるのもまた伝統です。中身は家庭ごとに違っていますが、肉、スパイス、栗、パン粉、果物を混ぜ合わせたものが一般的です。味の想像がしにくいかもしれませんね。とても美味しいですよ!さらに、肉の付け合わせとして、根菜もローストすることが多いです。ジャガイモ、サツマイモ、人参、パースニップ(イギリス原産の根菜)などです。クリスマスらしさのポイントは、ローズマリー。ローストする際、大量のローズマリーが表面に散りばめられていて、その香りは僕にとって、強烈にクリスマスを感じるものなのです。
イチゴのショートケーキは夏の定番。
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日本ではクリスマスの時期にイチゴのショートケーキを食べる人も多いと思います。これには、僕も驚きました。
ショートケーキの最初のレシピが登場したのは、1588年頃のイングランドだと記憶しているし、とてもすばらしいケーキだとは思います。だけど、イギリス人にとって完全に夏のケーキなんです!イチゴとクリームはイギリスでは夏そのものであり、ウィンブルドン(※編注:6月末〜7月にかけて開催されています)のオフィシャルフードになっているぐらいです。
イギリス人にとってクリスマスのお菓子は、伝統に従ったこってり濃厚なもの。風味でいえば、レーズン、サクランボ、プラム、オレンジ、ナッツ、ブラウンシュガー、ショウガ、ナツメグ、シナモン、マジパンです。日本でも手に入りやすいものでは、クリスマスプディングが挙げられます。
クリスマスプディングには、カレンツ、サルタナ、ナッツ、プルーン、柑橘類の砂糖漬け、小麦粉、パン粉、そして、それらすべてをまとめ上げる秘密の食材、スエット(汗ではありません。スエットは牛の腎臓のあたりからとれる脂肪で、風味はありませんが、多くのイギリスの伝統的なプディングやペーストリーの食感を作るのに役立っています)が入ってないと!
クリスマスプディングがテーブルにレイアウトして、照明を落としたら、プディングにブランデーをたっぷり含ませてから火をつけます。クリスマスプディングは熱く、濃厚で、アルコールを含んだ香り豊かなデザートであり、バニラアイスクリームなどマイルドな風味と最高に相性がいいんです……ここまで書いていて、また恋しくなってきました(笑)。
アルコールに関しては共通点があるかも。
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僕は熱燗を飲むという日本の冬のトラッドな習慣が大好き。最近は欧米のミレニアル世代の間でファンが急増中ですが、僕も日本酒のうまさにヤラれている一人です。
イギリスでも寒い季節にはアルコールが欠かせません。とくにクリスマスの時期にはマルドワインが定番です。マルドワインとは、クローブ、ショウガ、ナツメグ、シナモン、砂糖で味付けしたホットワインのこと。ワインに風味を足して温める伝統は、イギリスだけでなく、ヨーロッパの多くの国に存在します。寒い時にマルドワインを飲めば、全身をとても温かくしてくれます。アルコールや身体を温めてくれる食べ物は、クリスマスの大事な要素です。僕にとっての理想的なクリスマスとは、外で雪が降りしきっているなか、暖かい家の中で1日を過ごすことです。
お酒を飲まない人は、マルドサイダーやマルドアップルジュースを楽しみます。また、祖父母にはシェリー酒をプレゼントする伝統もあります。近年、若者の間でもこのシェリー酒の人気が高まっていることも付け加えておきましょう。
イギリスの、日本の、クリスマスを楽しましょう!
日英のクリスマスに関して、僕が思いつくところをまとめました。ちょっと食べ物の話が多かったかもしれない。だけど、料理の話をしたかったわけでじゃなくて、異なるクリスマスの楽しみ方を伝えたかったんです。
さて、僕は日本のクリスマスも好きなので、今年は日本式とイギリス式の両方のクリスマスを楽しむつもりです。
みなさんも楽しんでください!
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