イギリスアニメが中国のパンクアイコンへ!?――ベンのトピックス
ペッパピッグって知ってますか?
イギリスの子ども向けアニメ番組です。日本での知名度は低いですが、イギリス、アメリカ、中国、そのほか180もの国や地域ではとても有名です。とくに1995年以降に生まれた人たちの子ども時代の大きな部分を占めています。
発端はTikTokです。この動画コミュニティアプリは、中国でも「抖音(Douyin)」と呼ばれて絶大な人気を誇っています。トップユーザーともなると、そのフォロワー数は4000万人以上。すごい数です。
さて、中国のようにメディアが国家にコントロールされている国において、抖音のようなオープンなアプリが人気になると、それは反発する手段となります。1970年代のイギリスで音楽という手段を使って若者たちが反体制的なメッセージを発したように、今、中国の若者たちは抖音やSNSを使ってパンクムーブメントを起こしているのです。
中国のネット上のムーブメントにおいて、彼らは「外の社会を知っている」という意味で自らを“社会人”と称しています。社会人たちの多くは、エリートではなく、中低層階級の出身。抖音の世界に入り込んでいて、ストリートファッションを好むようです。
そんな社会人のアイコンとなったのが、他ならぬペッパピッグなのです。
「小猪佩奇身上纹, 掌声送给社会人」(ペッパピッグがタトゥーして、”社会人”の奴らにシャウトアウトする)
この一種のスローガンは中国で大人気のミームになりました。社会人たちはペッパピッグのエピソードを方言に吹き替えをしたり、おかしなパロディを次々とアップするようになりました。なかには、かなりダークで破壊的なものもありました。
ただアニメをパロディするだけでなく、彼らはペッパピッグの時計をつけたり、タトゥー(シールの場合も多いようです)を入れて、それを抖音に投稿することもありました。
結果、淘宝(タオバオ)のようなECでは、タトゥーシールが飛ぶように売れ、そして背中一面にペッパピッグの入れ墨を彫るように頼まれた彫師がいるという噂がネット上に流れ、さらにペッパピッグとブランドとのコラボを謳った海賊版商品が中国で流通するようになったのです。
2019年は、よりペッパピッグが盛り上がるかもしれません
中国政府は、このようなアナーキーな若者たちのムーブメントが、他の若者たちにも影響を与えようとしている状況を好ましく思うわけがありません。中国政府は、彼らの本質的な価値観に何が合致し、何が合致していないのかという厳格なルールを定めていて、メディア及びエンタメ業界はそれに従うべきと考えています。
2018年の夏、抖音はハッシュタグ「#小猪佩奇」(ペッパピッグの中国名)を含む投稿をすべて削除することになりました。
しかし、社会人やペッパピッグを取りまく流行を抑えられたようには思えません。なんせ2019年は猪年(中国で「猪」は豚のこと)です。ペッパピッグとそのファンからは、むしろもっと大きな声が聞こえてくる可能性があります。
僕はそれほど政治的な信条がある人間ではありませんが、言論の自由は大事だと思います。それに、いたずらやジョークやトラブルを起こすのは大好きです(TABI LABOの同僚に聞けば、誰もがYESと言うでしょう)。だから、中国の若者の間でペッパピッグがひとつのアイコンになっていることはとてもおもしろいと思います。いかなる政治的な意味合いがあろうと、彼らが抖音を使って、独自の声を得たというのは素晴らしいとも思います。
まあ、この話から何を学べるかは分かりませんが、僕はこういうワイルドな話を見聞きするたびに「僕たちはなんとクレイジーで美しい世界に住んでいるんだ!」と思うのです。
Top image: © Naomi Nemoto