ボーイ ドゥ シャネルの衝撃――ベンのトピックス

シャネルが、ファンデーション、アイブロウ・ペンシル、マットな仕上がりの保湿リップクリームの、3つの製品で構成される「ボーイ ドゥ シャネル」を立ち上げました。すでに2018年11月にネット上では販売がスタートしており、2019年1月には店頭販売も開始しています。

僕はこのニュースをとても興味深いと感じました。

なぜなら……。

90年代のイギリスは、男性の美容に保守的だった

僕の少年時代、1990年代後半のロンドンにおいても男性の美容文化は極めてシンプルなものでした。ほとんどの男性は床屋で髪を切り、バスルームにあるのはせいぜいヘアワックスやアフターシェーブ・ローション、デオドラント、必要であればニキビ用クリームぐらい。
 
男性がスキンケアをすることは、それほど一般的ではなかったのです。
 
そのなかで僕は変わった子どもでした(多分、今でもそうです)。姉やいとこ、女の子と一緒に育ったことも関係しているでしょう。「女の子っぽいもの」を好きになることに抵抗がありませんでした。
 
髪を伸ばし、ヘアサロンに行くのが大好き。小学校の友達はそんな僕を変わり者とみていたようですが、周囲の目は気になりませんでした。だらしない髪型なんて!と思っていたのです。

デヴィッド・ベッカムとデヴィッド・ギャンディ

僕がティーンエイジャーになる頃には、自分の周囲だけでなく、イギリス社会全体が変化してきました。

その象徴が2人のデヴィッドです。

ひとりは00年〜09年までサッカーのイングランド代表チームのキャプテンを務めたデイヴィッド・ベッカム。そして、もうひとりはドルチェ&ガッバーナの顔であるトップモデルのデイヴィッド・ギャンディ。両者とも世界的な人気者です。

彼らは男性が身なりを整えることがクールであるという風潮をつくりました。以前のように「男が○○クリームを使うなんて女々しい」と汚名を着せられるようなことは少なくなったのです。

この変化はある種のジェネレーションギャップを生むことになります。

僕はこんな出来事を覚えています。15歳の頃、学校教師の1人がクラスの男の子たちに「保湿クリームを塗っている人は何人いるんだ?」と質問しました。手を挙げたのは約7割ぐらいの男の子たち。もちろん、僕のその1人です。すると、その教師は全員に向かって「それでも男か!?」と言いました。僕は「先生のようなゴワゴワしたおじさんの肌になりたくないんです」と反論し、クラスから追い出されました。

その教師の世代では、保湿クリームは男らしさを損なってしまうものだと認識していたわけです。彼らは、女々しいやつとか、ゲイだと呼ばれることを恐れていたのです。

現在のイギリスでは、かつて僕を追い出した教師のような人は少ないでしょう。だけど、それでも保湿クリームを使っていることを女性ほどおおっぴらに認めることは多くの男性にとって抵抗があると思います。実際は多くの男性が使っているだろうに!

これはとても馬鹿げたことです。どうして自分の見た目に誇りを持つことが恥ずかしいのでしょう?

日本人男性の自己表現

少しだけ反抗的だったティーンエイジャーを卒業した僕は、08年に初めて家族と一緒に日本を訪れました。これまでの僕の人生でもっとも印象深い旅のひとつです。日本語を学ぼうと決めたのも、今TABI LABOで働いているのも、この旅が理由だと思います。

日本とイギリスには、いろいろなカルチャーギャップがあると感じましたが、なかでも日本人男性の自己表現には驚きました。イギリス人よりもはるかに手の込んだ髪型で色も多彩です。中性的な男性やメイクをした人もいました。とりわけ、原宿のビジュアル系、歌舞伎町のホストたち!

00年代のイギリスでは、男性のメイクはラッセル・ブランドようなエンターテイナーやザ・リバティーンズのピート・ドハーティのようなミュージシャンがするものでした。ところが、日本ではそれが受け入れられていると感じました。

その後、それは日本だけではないと知りました。韓国では男性がメイクするなんて普通のことです。

僕は欧米文化とアジア文化を大きく分かつ“なにか”が、この違いにあると考えています。

「ボーイ ドゥ シャネル」は、変化の兆し

ボーイ ドゥ シャネルに話を戻しましょう。

たった10年前ですら、シャネルのような企業がこのような製品を発売することを僕は想像していませんでした。ボーイ ドゥ シャネルは世界に少なからずインパクトを与えたと思います。

今後、僕がメイクするようになるか?

それはまた別の話です。今のところ予定はありませんが、プレゼントとしてボーイ ドゥ シャネルをもらったら、間違いなく試してみます。男性がメイクすることに対して、僕はまったく抵抗がないからです。

自己表現が多様になっていくのは、とてもいいことだと思うし、僕は興味がありますね。

illustration by Naomi Nemoto

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