もし、日本時間が「2時間前倒し」されたら

多くの課題を抱えながらも、英国の経済状況はここ20年間右肩上がり。人口や資源において優位とは言えないはずのこの国が、なぜ国際社会においてこれほど高い地位を維持できるのでしょうか?

書籍『現役官僚の滞英日記』(PLANETS)の著者である現役官僚の橘宏樹氏が、自身が名門大学で過ごした2年間の滞英経験をもとに、英国社会の"性格"に迫ります。

最終回となる本記事は、日本ではあまり馴染みのない「サマータイム制度」について。

※前回の記事はこちら

もし、日本の標準時が東経165度になったら

イギリスでは3月末から10月末まで、時計の針を1時間早める「サマータイム制度」があります。

この制度の主な目的は、日が出ている時間をなるべく有効活用すること。18時に仕事が終わる人は、昨日までは17時だった時刻に仕事が終わり、自由に使える日没時刻までの時間が1時間長くなるわけです。

学校に通ってもいいですし、屋外スポーツもしやすくなったり、お子様連れで出かけやすくもなります。おのずと経済活動は活発化するでしょう。

日本でもこのサマータイムの導入について、これまで様々な議論や試行実験などが行われてきましたが、なかなか本格的な導入にまでは至っていません。前述の「アフターファイブ経済」の開拓は大変魅力的だと思います。と同時に、日本人が何時から何時まで仕事をするべきか、地球上において、GDP世界第3位の規模を持つ日本市場をいつ開きいつ閉じるのか、という視点も重要になってくると思います。

いっそ、兵庫県明石市を通る東経135度の標準時子午線を、東経165度にまで動かしてしまおう、というアイデアもあります。これによって、日本時間を2時間前倒しにしてしまおうというわけです。しかも夏の間に限らず通年で。

僕がこのアイデアを初めて聞いたのは、元京都市観光政策監(京都の観光行政のトップで、事実上の市役所ナンバー3)の清水宏一氏から。僕は当時、なかなかぶっ飛んだアイデアだな、と大変驚きました。

その後調べてみたところ、政府の産業競争力会議(第9回2013年5月22日)でも、猪瀬直樹元都知事が同説を主張していました。猪瀬氏の主な狙いは、主要都市の中で最も早く始まる市場 ・東京を目指し、世界市場を東京、ロンドン、ニューヨークで8時間ずつ24時間カバーできるような体制にすること。

これにより、現在のアジアの金融センターであるシンガポールや、中国経済との接続で期待の高まっている香港・上海に先んじて金融取引を始め、日本の存在感を増そうというわけです。

国際金融市場は東京をどう見ているか

とはいえ、当然ながら同説には批判も多く寄せられています。

本当に標準時を2時間前倒したら、西日本在住の方々や冬季の北日本の方々などは、日の出前の暗闇や零下の屋外で活動することを強いられてしまいます。

世界で最も早く金融取引を始めることだけが目的なのであれば、東証の取引時間を早めれば良いだけかもしれません。それ以前に、東京がもっとも魅力的なアジアの国際金融センターとなるには、標準時や取引時間を動かすことだけでは足りないでしょう。

世界経済を先導しているイギリスのシティから見ると、東京は投資したり住んだりするには面倒くさいことが多すぎる、という空気です。投資先ということは赴任先ということにもなりますから、金融エリートの奥さん連中が暮らしてもよい、暮らしたい、と言うかどうかが、非常に大事な問題であるようです。

しかし、現在イギリスはじめ先進国の一部では、東京はアフリカなどとともに、暮らすのが大変な「障僻地」に分類されています。蒸し暑いうえに英語が通じないので、赴任者には厚い手当がつくのです。

たとえば、サマータイムの導入によって「アフターファイブ経済」の開拓による国内市場の拡大、東証の取引時間の前倒し、規制緩和と英語公用等を認めて海外の金融エリートを呼び込める金融特区を都心の一部に設置するなどの政策が実行されると、「日本が本気でアジアの国際金融センターの地位を取りにきた!」と世界にサプライズを与えられるかもしれません。

標準時移動自体は、なかなか飛びつきにくいアイデアですし、導入するにしても配慮や調整が必要だとは思います。ですが、一概に否定せず、発想力のスケール感や議論の幅として、そのようなアイデアも視野に入れた議論が活発になされる日本であってほしいとも思います。

みなさんはどうお考えになりますでしょうか?


書籍『現役官僚の滞英日記』ではここでは紹介しきれなかった話題も数多く掲載しています。

橘 宏樹(たちばな ひろき)

官庁勤務。2014年夏より2年間、英国の名門校LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス)及びオックスフォード大学に留学。NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。twitterアカウント:@H__Tachibana

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