まな板を「贈る」という、感謝の伝えかた。
これは、イチョウの木から削り出したまな板。
ただのまな板。
わざわざ水引を描いた上紙を巻きつけ、こちらもご丁寧に特注でこしらえたという化粧箱に納められています。こんなにも“過保護”なまな板、見たことがありません。
そっとフタを開け、上紙を外し、中身を出してみました。
やっぱり、ただのまな板なのです。
一見すれば、ですけどね。
自分のカラダをつくるもの
「心くばり」を道具に込めて
まな板に求められていることを
もう一度見直しました。
この一文から始まる作り手<WONDERWOOD>の大切な想いが、上紙に綴られています。
そりが出にくい厚さ(それでも最大限の軽量化)、キッチンに美しく溶け込むサイズ感、包丁にやさしい硬さと復元性……。もちろんプロダクトですから、こういった特性に配慮されているのは言わずもがな。
それよりも、手にして思ったことがあります。どういうわけか、“しっくりくる”のです。重さといい、厚みといい、手触りといい。
包丁をストンと下ろしてみる。一筋のキズが入る。けれどそれすら惜しくないのです。プラスチック製のまな板が奏でる乾いた甲高い音ではありません。ふと、背中を丸めて台所に立つ祖母の姿が目に浮かびました。
そもそも、いちょうは和食の料理人の仕事を支える道具として重宝されてきた板材。こう聞くと、プロ仕様の扱いづらいシロモノのように思われるかもしれません。かく言う私もそのひとりでしたから。
何はともあれ、早速使ってみることに。ストン、ストン、小気味良いその音を耳にするだけでも、料理(好き)男子としては心躍ります。
特筆すべきは刃の当たり。まな板って、硬すぎれば包丁を傷めてしまうし、柔らかくてもこんどはまな板の傷が増えて、そこが雑菌の温床になることも。そこへ行くとこのまな板、硬すぎず、柔らかすぎず、まさに「ちょうどいい」のです。
いちばんのお気に入りはココ。
まな板らしからぬ曲面加工が上下の長辺に施されている点です。
どうしても作業台には水滴が残りますよね。すると、台とまな板を接着剤のようにピタッと張り付いてしまう。こうなると動かすだけでもひと苦労。爪を傷つけてしまうことも。そこでこの加工。つかみやすい設計これひとつとっても、使う人への気づかいと意匠が表れているなぁ、と納得してしまいました。
「日用品を贈る」ことの意味
脱線しましたが、気になるのはやりすぎとも思える包装になぜWONDERWOODがこだわったのか。まな板1枚に14,800円(税別)と、それなりに値が張ります。けれど、大切な誰かに贈るとなればどうでしょうか?
日用品のまな板をプレゼント──。
では、誰に?どんなタイミングで?
そんなシーンを想像したことがないかもしれない。なんでもドイツでは、近年まな板(カッティングボード)を贈りあう習慣があるそうです。考えてみればその発想がなかっただけで、贈りたい相手は身近にもいるんじゃないでしょうか。
一緒に料理を始めた彼女へ。
ほとんど顔を見せていない実家の母へ。
新生活のスタートを切った兄弟へ。
毎日使うモノ、使ってほしいモノ、それが明日のカラダをつくる一食を生む道具であるということ。生活の場にある道具には、本来そんな人から人への「心くばり」や「気づかい」が込められているのかもしれませんね。
ところで、これが“ただのまな板”でない理由がもうひとつ。「人と木の在り方」を愚直に考え続ける若き経営者たちの情熱は、ぜひこちらの記事で。