思い出のキス#12 「一瞬の夢」
誰にだってある。思い出すと、ほのぼのしたり、なんだか恥ずかしくなったり、切なくなったり、涙がこぼれそうになったり。そういう特別な感情が生まれるキスのエピソードを、みなさまにお届けしていきます。
#12 「一瞬の夢」
一目惚れだった。
顔も声もスタイルもすべてがタイプ、そういう人ははじめてだった。
出会いは仕事関係のパーティー。だけどそんなのはお構いなし。挨拶をした勢いにまかせて連絡先を聞き出した。
すこし会話してわかったのは、香港在住ということ、今は仕事の都合で一時帰国中ということ、そして1週間後に香港へ戻るということ。
はやく想いを伝えたくて、その場でデートに誘った。
「明日の夜、ご飯行きませんか?」
すんなりOKが出た。
でも当日になって、「仕事が片付きそうにないから会えない」と連絡が。何度か同じようなやりとりをしているうちに、彼が香港へ戻る前日になってしまった。
焦ったわたしは、「今日も夜遅くまで仕事だと思うけど、どうしても会いたい。会社の近くのカフェで待ってる!」と連絡をした。「会えるようにするね」と、返事こそいつも通りポジティブだったけど、ドタキャンされた時に深く落ち込みたくなかったし、「来ない可能性の方が高い」と自分に言い聞かせていた。
そして夜。9時ちょっと前だったかな。なんと彼から「終わったよ、どこにいる?」と連絡がきたのだ。
嬉しくて嬉しくてどうしようもなくて、カフェのトイレにかけこんで声を押し殺して叫んだ。
20分ほどして、本当に彼が来た。隣り合わせで座った。
想いを伝えるタイミングを見はからいながら、いろんなことをはなした。
たぶんあれは大学時代所属していたサークルについてはなしていた時だろう。何の前触れもなく、唇にチュッとしてきた。
「ん?え?何で今?何でこんな場所で?」素直にそう思った。彼は平然とはなしに戻ったし、わたしも同調している風を装って会話を続けた。が、キスのせいで「告白する」という当初の目的は頭の中から一掃された。
そうこうしているうちに時間は過ぎ、お互い終電で帰宅。どういう意味のキスだったのか、考えても考えても彼の気持ちはわからないままだ。
ただそのムードもへったくれもないキスのおかげで、わたしは一目惚れという夢から冷めた。やっぱり外見なんて頼りにならないし、ムードを作れない男はつまらない。そう確信した夜だった。
協力:K.O(PR会社勤務、26歳)