思い出のキス#13 「グレーな関係のはじまり」

 

誰にだってある。思い出すと、ほのぼのしたり、なんだか恥ずかしくなったり、切なくなったり、涙がこぼれそうになったり。そういう特別な感情が生まれるキスのエピソードを、みなさまにお届けしていきます。

 


大学2年生の頃。
相手は、当時バイトしていたビストロのオーナー。41歳、既婚者で子どももふたりいた。

お互いの家が近所ということもあって、わたしのシフトがラストまでの日は、車で家に送ってもらっていた。バイトに関係のない連絡もよくきていて、彼がわたしに気があることは、なんとなく知っていた。

 

あの夜は、友だちと飲んでいた。ちょうど彼ともラインのやりとりをしていた。わたしの文章で酔っ払っていることに気づいたんだと思う。

「迎えに行こうか?」

と、電話がきた。電車に乗って帰るのも面倒だったので、ありがたく迎えに来てもらうことに。

 

友だちと解散して待ち合わせ場所に向かうと、彼の車があった。

「お待たせしました」

そう言いながら車の中に入った。シートベルトをかけたところで、彼はこう言った。

「ドライブ、行かない?」

翌日は朝から授業だし、はやく帰らなきゃいけなかった。だけど酔っ払って頭の中がフワフワしていたし、「まあ、なんとかなるかあ」と思い、誘いを受けた。

行き先は、ベタに横浜。

うとうとしているうちに到着。どこかに車を停めたタイミングで(正確な場所は覚えていない)、彼が、スーッと唇に軽いキスをしてきた。

突然だったから、すごく驚いた。

「なんでビックリしてるの?そういう流れでしょう」

べつに怒っている風ではなくて、諭すような口調でそう言った。だからわたしも「大人ってこうなのかなあ」と、妙に納得してしまった。

そしてもう一度、今度はすこし長めのキスをした。過去の彼氏と交わしたどんなキスよりもエロティックで、なんだかもう溶けてしまいそうなくらい心地のいいキスだった。

その瞬間、わたしは彼に恋をして、不倫関係がスタートした。

 

協力:C.M(25歳、編集アシスタント)

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。