思い出のキス #16 「情けない“キュン”」
誰にだってある。思い出すと、ほのぼのしたり、なんだか恥ずかしくなったり、切なくなったり、涙がこぼれそうになったり。そういう特別な感情が生まれるキスのエピソードを、みなさまにお届けしていきます。
彼氏が浮気をしたのは、これが3度目。
1度目は、本気になりそうなところで発覚し、わたしから振った。でもしばらくして「浮気相手とは縁を切ったから」と復縁を迫られ、ヨリを戻した。
2度目は、すでに本気になっていたので、わたしの方が振られた。だけど、またしばらくして「浮気相手とは縁を切ったから」と復縁を迫られ、ヨリを戻した。
で、3度目。経緯はさておき、今回は一夜の過ちだった。
それまでの浮気がかなりハードだったので、もう動じなかった。むしろ「もっと盛大にすればいいのに」なんてつまらなく感じた。(彼が調子に乗るのは目に見えていたので)口にこそしなかったけれど、別れを切り出そうなんて1ミリも思わなかった。
ただ、どこの誰かもわからない女と関係を持った彼に、しばらく触れる気にはなれなかった。会話は普段通りにできていたものの、体を重ねることも、キスを交わすことさえできなかった。
その状態が1ヶ月くらい続いたある夜。たぶん12時を過ぎていたと思う。飲み会帰りの彼がわたしの家にやって来た。酔っ払いに構うのが少し面倒だったので、ベッドで寝たふりをして迎えた。
部屋に入って来た彼は、その足で、顔まで布団に埋めているわたしの方へ近づいてきた。
そして、そっと布団をめくり、わたしのおでこにキスをした。
キュンとした。と同時に、自分が情けないと思った。「“させて欲しい”とお願いされたらしぶしぶ承諾する」というシナリオを組んでいたのに、そんなのはどうでもよかった。その瞬間、彼とちゃんと口付けをしたくなってしまった。
もう、浮気の一件は頭から消えていた。
協力:H.T(27歳、会社員)