思い出のキス#05 「ピンポンキッス」
誰にだってある。思い出すと、ほのぼのしたり、なんだか恥ずかしくなったり、切なくなったり、涙がこぼれそうになったり。そういう特別な感情が生まれるキスのエピソードを、みなさまにお届けしていきます。
#05 「ピンポンキッス」
オメーと一緒だと楽しいよ。
会話も弾むしね。
曽利文彦『ピンポン』(映画、2002年)
原作:松本大洋、脚本:宮藤官九郎
たくさんお話をした夜の決まりごと。それは、彼が好きな『ピンポン』で、主人公のペコが幼馴染のスマイルに向かって言ったこのセリフを、ふたりで真似すること。
彼が上の句で、わたしは下の句の担当。「あれやろうよ!」とかいう前置きはなくて、それは、彼のタイミングで突然はじまる。わたしが言いそびれた時には、何度もやり直しをさせられる。
掛け合いに満足すると、うれしそうな表情をうかべながら、彼はいつも軽いキスをしてくる。たとえ居酒屋さんのなかでも、電車のなかでも、駅から家までの帰り道でも、どこでも、だ。
「人前で、やめてよ」
わたしが怒ると、余計によろこぶ。でも、そんな彼のすがたをみて、わたしの方がとってもしあわせな気持ちになっているのは、まだ内緒のはなし。
協力:H.Tさん(24歳、編集者)