思い出のキス#02 「スパイダーマンキス」
誰にだってある。思い出すと、ほのぼのしたり、なんだか恥ずかしくなったり、切なくなったり、涙がこぼれそうになったり。そういう特別な感情が生まれるキスのエピソードを、みなさまにお届けしていきます。
#02 「スパイダーマンキス」
ロフト付きの家で同棲している彼氏との、ある休日の昼下がりのこと。
1階でお皿洗いをしていたら、ロフトにいる彼がわたしの名前を呼んだ。
手を止めて階段のほうへ行くと、彼は、ロフトから1階に、上半身だけ逆さに乗り出した状態でいた。
「え……なにしてんの?」「スパイダーマンキスしてみいへん?ちょっと、こっち来て」「いやや。なにそれ」(じつはわたし、スパイダーマンシリーズを1作品も観たことがない)「いいから、来てって」「いやや」「いいから来て!」「え〜」「いいから!」「う〜ん……わかったよ」
しぶしぶ承諾して、言われるがままに所定の位置に立った。すると、逆向きでうれしそうにニヤニヤしている彼の顔が近づいてきた。
わたしたちは、スパイダーマンキス、というのを交わした。
渇望されたわりになかなかふつうのキスだったこと、そして、休日の平和感になんだか心がほんわかして。唇がはなれた途端、わたしは吹き出してしまった。
彼は、家であまり笑わないわたしを笑わせることを日課にしている。きっとこれも、彼なりに必死に考えて思いついた、わたしを笑わせる方法だったんだろうな。
協力:S.Kさん(23歳・歯科衛生士)