思い出のキス#14 「初恋の相手と」

 

誰にだってある。思い出すと、ほのぼのしたり、なんだか恥ずかしくなったり、切なくなったり、涙がこぼれそうになったり。そういう特別な感情が生まれるキスのエピソードを、みなさまにお届けしていきます。

 


「S君さ、県外の高校に行くらしいよ」

S君はわたしの幼なじみであり初恋の相手。幼稚園も、小学校も中学校も同じ学校に通っていた。お互いの家も数分で行き来できるくらいに近所だった。

毎日一緒に登下校していたわけじゃない、頻繁に家へ遊びに行っていたわけでもない。だけど、「同じ環境にいること」が当たり前な彼は、わたしの日常の一部だった。

 

高校も同じ学校に進学するとばかり思っていた。
でも違ったらしい。

 

友だちから最初の言葉を聞いた途端に、涙が溢れた。そして気づいた。彼のことが好きなんだ、と。

それなりに好きな人はいたし、彼氏がいた時期もあった。だけど心のどこかにはいつも彼がいた。きっと、ずっと好きだったんだと思う。

「離れ離れになる前に、ちゃんと想いは伝えておきたい」そう思うといてもたってもいられなくて、その日の放課後、彼を非常階段に呼び出した。

 

「違う高校へ行くんだってね。離れ離れになる前に気持ちだけ伝えておきたくって。……あのね、好きだよ」
「彼女はいないよ。っていうか、別れた」
「あ、そうなんだ」
「……っていうか、僕も好きなんだと思う」
「え?ほんとに?」
「うん。ずっと気にはなってた」

すると彼は、ぎこちなくわたしを抱き寄せ、それからゆっくりと唇にキスをした。

 

別々の高校に進学し、会える頻度が減って、結局数ヶ月で別れた。でも、その後も今も、ただの友だち以上にたいせつな存在であることには変わりない。あのキスのことは、一生忘れないんだと思う。

 

協力:Y.O(24歳、カフェ店員)

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。