忘れられない「国語の教科書」で読んだ物語(夏のおはなし)

 

大人になっても忘れられない、小学生の頃に「国語の教科書」で読んだ物語。集まって文章になった日本語から「みずみずしさ」を感じたのは、このお話に出会った時が初めてだったように思います。

「やまなし」

 

 

二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。

『クラムボンはわらったよ。』

『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』

『クラムボンは跳ねてわらったよ。』

『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』


『やまなし』作:宮沢賢治(パロル舎)より抜粋

 

辞書にも載っていない「言葉」が、あたりまえのように出てくる物語。なんだかすごい言葉を知ってしまったような気がして、当時人知れず感じていた、心のざわめき。

結局、大人になった今も、あの名前が指すものが何であるのかはわからないまま。それでも「クラムボン」という言葉は、夏の風物詩のようなものとして自分の中にあります。

そこにあるのに、掴むことのできないもの。ずっとそばにいるのに、まだ目に見えないもの。すこし奇妙で、長い夏休みの白昼夢のような感覚を与えてくれる「言葉たち」が、静かに揺らめいている物語です。

 

Top photo: © Rocksweeper/Shutterstock.com
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。