「法廷画家」が語る、事件と裁判、そして仕事について【前編】

世の中には、なんとなく耳にしたことはあっても、実際にどんな内容なのかあまり知られていない「仕事」が数多く存在します。そのひとつが、ニュースやワイドショー、新聞、雑誌など、様々なメディアを舞台に活躍しているにも関わらず表舞台に出ることの少ない「法廷画家」。今回は、世間の注目を集めた数々の大事件にまつわる「法廷画」を描いてきた法廷画家・榎本よしたかさんに「法廷画家という仕事」と「事件・裁判の真実」についてお話を聞きました。

榎本よしたか

1977年生まれ、和歌山県出身。高校卒業後、インテリアメーカーに就職し、家具デザイナーとして活動。その後、フリーランスのイラストレーターに転身し、雑誌、広告、TV番組のアートワークなどを手がけ、2003年より「法廷画家」として各種メディアで活躍。日本イラストレーション協会(JILLA)所属。HP:http://yoshitakaworks.com/ ブログ:http://tokonokubo.blog.fc2.com/blog-category-1.html

巨大な権力の監視......
それが僕らの仕事の役目

© 2018 TABI LABO

──はじめに「法廷画家」がどんな仕事かを簡単に教えてもらえますか?

榎本よしたか(以下 榎本)「まず、裁判を担当している“司法”っていうのは、すごく巨大な権力をもっているんですね。だから、その強力な国家権力が正しく行使されてるかを国民の“知る権利”のもとに監視できるように傍聴席が設けられています。でも、過去の歴史的な背景があって、裁判中の法廷内は、テレビカメラも写真のカメラも撮影が禁止されているんです。そこで、裁判の様子を絵に描いたものが報道に必要になる、と。その絵を描くのが、僕たち法廷画家の仕事になります」

──裁判は一般の方でも傍聴できますよね?

榎本「はい、普通の裁判であれば、一般の人も自由に傍聴できます。でも、世間的に注目度の高い裁判を、一般の人たちが傍聴できる可能性は極めて低いです。だから、僕たちの仕事が必要だと考えています」

──なるほど。では、榎本さんのこれまでの経歴を教えてください。

榎本「小さいころから絵を描くのが好きで、幼稚園のころから“将来は絵描きになる”っていってたようです。でも、高校を卒業してすぐにイラストレーターになれるとも思えなかったので、もともと好きだったインテリアの世界に進んで、家具のデザイナーになりました。そこで7年ほど社会経験を積んで、イラストレーターを名乗ったのが25歳のときです」

──イラストレーターとしての仕事はすぐに軌道に乗った?

榎本「いや、最初の1年~2年は、なかなか厳しかったですね。プロとして活動していくためのノウハウがまったくわからないような状態だったので……。そのころは地元の和歌山で活動していたんですが、漫画雑誌の編集部に作品を送ったり、地元の印刷所、出版社、新聞社とかを巡ってみたり。あとはホームページを作って、いろいろなタッチの絵を載せたりしていました。そのうち、少しずつイラストの仕事をもらえるようになってきましたね」

世間を騒がせる事件の
審判の場へ......

© 2018 TABI LABO

──法廷画家としてのキャリアは?

榎本「今から15年くらいまえですが、地元のテレビ和歌山というローカル局から連絡があったんです。それで、局のお偉いさんの部屋に呼ばれて“私の似顔絵を描いてもらえませんか?”って。そのときは、なんで呼ばれたのかよくわかっていなかったんですけど、パパパって5分くらいで描いたら“このスピードでこれだけ描けたら大丈夫だな。じつは裁判のスケッチを描く仕事があるんだ”っていわれたんです。その局には、ずっと頼んでいたご年配の画家の方がいらっしゃったんですが、高齢で廃業されてしまったようで、インターネットで“イラストレーター 和歌山”で検索したら、僕が引っかかったらしくて……。それから3日後に、当時の和歌山市長の汚職事件の初公判の様子を描いたのが、法廷画家としての最初の仕事でした」

──その後もしばらくは和歌山で活動を?

榎本「はい、テレビ和歌山からは何度か法廷画の依頼を受けて、珍しい仕事だったので、その絵を自分のホームページにも載せていたんですね。ほのぼのとしたイラストの横に、犯罪者のイラストを(笑) そしたらTBSの『みのもんたの朝ズバッ!』という番組のスタッフから“ある裁判が京都地裁であるから法廷画をお願いしたい”と連絡があって。それをキッカケに、全国区の番組に僕の法廷画が使われるようになったんです」

──依頼は電話でくるものなんですか?

榎本「緊急の場合が多いので、メールではなく電話での連絡がほとんどです。たとえばですけど“明日、那覇地裁である女優さんの薬物関係の裁判があるので飛んでもらえますか?”とか。それで、飛行機をとって、すぐに現地にいって、泊まって。渡航とか宿泊の手配も自分でやることが多いですね、基本的に現地集合なので」

──事前に事件についての詳細な説明は?

榎本「僕たち法廷画家が呼ばれる裁判は、注目度の高い有名な事件ばかりなので、詳しい内容はニュースで知っているものばかりです。裁判がはじまる1時間〜1時間半前に番組のスタッフと現地で落ち合って、軽く打ち合わせをしてから法廷に入ります」

報道の真実。
3700人が並んだ裁判とは?

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──注目度の高い裁判などは、傍聴券が抽選になるようですが……。

榎本「行列を作っている人の多くが、番組や局が用意した“並び屋”と呼ばれる人たちですね。並んでいるのは、その裁判にそれほど興味がありそうに思えない大学生やご老人の方も多く、そういったアルバイトの方を集める企業もあると聞いています。もちろん、カメラマンとか記者、ディレクター、ナレーター、僕たち法廷画家、全員が並びます。完全な人海戦術ですね。傍聴券がとれなかったら法廷には入れないわけですから」

──一般の方たちは?

榎本「話題の裁判を一般の人が傍聴できる確率は、かなり低いです。じつは、もともとは被害者や被害者遺族の人も傍聴券が当たらなければ法廷に入れなかったんですよ。でも、’99年に山口県で起きたある殺人事件のときに、遺族の方が“裁判に関われない、見ることもできないのはおかしい”と国に訴えて、犯罪被害者等基本法の成立に至りました。だから今は、被害者の遺族の方が望めば優先的に傍聴することが可能になりました」

──榎本さんも入れなかったことはある?

榎本「僕自身はこれまで法廷に入れなかった経験はないんですが、知り合いの法廷画家の方から、ある殺人事件の裁判で秋田までいって、傍聴券を手に入れられずに泣く泣くトンボ返りしたなんて話を聞きましたね」

──話題性の高い裁判では、どれくらいの人が並ぶんでしょうか?

榎本「2年ほどまえの裁判では、20席ほどの傍聴券を巡って3700人あまりが並びました。倍率にしたら......180倍くらいになりますね。ニュースやワイドショーでも毎日のように扱われていたので、知っている人も多いと思うんですが......とある有名野球選手の覚醒剤取締法違反の初公判でしたね、あれは」

【後編】に続く

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