#6 日本の音楽に極端な情熱を持っていた――TANUKI インタビュー

Vaporwave特集 #6

ヴェイパーウェイブの派生ジャンル、Future Funkのサウンドは、それまでよりもアッパーでダンサブル。新しいファンを獲得し、より広い層に届いた。

アートワークは、レトロウェイブとも呼ばれる16bitゲームライクなグラフィックや、コマーシャル、アニメ作品からインスパイアされているものも多い。そのなかで日本のポップスがサンプリングされて広まったこともあり、シティ・ポップが海外で再評価されるきっかけをつくったとも言われている。

イギリスの音楽プロデューサー・TANUKIもそのクリエーターのひとりで、2015年にリリースした『BABYBABYの夢』は、YouTubeでも紹介されて720万再生を突破。今年の5月には、各国のクリエーターたちとともに来日し、80年代日本アニメの楽曲を制作していたミュージシャンたちと、共同制作をするイベントに参加した。

日本の音楽に対して強い愛情を持っていたとは言うものの、友だち同士で楽しむために遊びでつくったものが、こんなに知られることになるだなんて、本人もまったく想像していなかったのだという。

 

 

――ものすごい人気ですが、本人はどう感じられていたのかなと。

 

完全に想定外でビックリした。

だって、自分とまわりにいる友だちとだけ楽しむために遊んでて、サンプリングとエフェクトでなんでもいいから音楽をつくりたかっただけだったから。

名前もテキトーにしようと思って、『平成狸合戦ぽんぽこ』を見たあとに決めた。こんなに知られるとわかってたら、もうちょっと違う名前にしてたと思う(笑)。

 

©2018 TANUKI

 

――可笑しな日本語としてニュアンスはバッチリですね(笑)。Future Funkは意識していなかったんでしょうか。

 

音楽プロデューサーとしての活動自体は2009年からしていて、J-Coreをメインに、Happy Hardcore、Drum and Bass、 Glitch Hop、Dubstep、Chiptune、Synthwave、と様々なジャンルのプロジェクトがあった。

2014年のはじめ頃にMacintosh Plusの『Floral Shoppe』を聞いてヴェイパーウェイヴを知ったんだけど、それでサブジャンルのFuture Funkのことも知って、すぐハマったね。それまでに聞いたことがなかったお宝楽曲がたくさん潜んでたんだよ。

 

――お宝とは?

 

T-SQUAREやDIMENSIONのような、日本のジャズやフュージョンバンドが大好きだったんだけど、そういう一番好きな時代の音楽をサンプリングしていたジャンルだったから、そのサウンドだけでも素晴らしくて、どんどん引き込まれていった。

まさか、TANUKIがこんなにひろがるなんてね。それだけソーシャルメディアでみんなと繋がることが簡単になっているってことだと思う。それにはとても感謝してる。

シェアや拡散っていうインターネットカルチャーがなければ、今愛し、サポートしている作品群のことだって、知ることすらできなかったし、ぼくが出会った素晴らしい人々や、尊敬している人との関係はありえなかったかもしれないから。

 

――日本の音楽にはいつから興味を?

 

もともとギターを弾いてて、2000年代はじめに80年代あたりの素晴らしい音楽にたくさん触れたのがきっかけで日本の音楽にハマった。

こっちとは、コード進行やメロディがぜんぜん違うからおもしろくて、極端な情熱を持つようになったんだよ。

ヴェイパーウェイヴに関係なくとも、Perfumeの『ポリリズム』は個人的に凄い音楽だと思ってる。ここで使われているリズムアプローチは、メシュガーっていうエクストリームメタルバンドで初めて知ったから、これほどキャッチーになるなんて信じられなかった(笑)。

頭にこびりつくメロディに高揚するコード進行……中田ヤスタカは天才だ。日本は、いろいろなジャンルに良い曲がたくさんあるよね。

 

――どちらかというと、日本のポップスへの思い入れが強いってことでしょうか。

 

うーん。個人的に、Future Funkの盛り上がりはインターネットカルチャーのなかでも最高のクリエーションの一つだと思ってるよ。

まだヴェイパーウェイヴという名前がついてなかったころは、チルやアンビエントって感じも多くて、主なトピックがノスタルジア中心だったよね。

それからRetro Aestheticsな雰囲気が流行って、Mall Softでコマーシャル映像や子どもの頃の記憶、BGM的な産業音楽が注目されて、Future Funkで日本の名曲がたくさん紹介されるようになった。

そこには、同じものを使って、同じようなスタイルで、定義できない新しいアートをつくっている人たちがたくさんいて、そのどれもが素晴らしかった。

 

――ノスタルジアと、日本の名曲と、定義できない新しいアート。その全体に共通する魅力があるんですね。

 

そうだね。その要素は、今もそれぞれのサブジャンルのなかで生きてるんだと思うよ。Mall SoftやFuture Funkにも。

いくつかのサブジャンルは、もっと小さな規模のコミュニティで活動をしているけれど、ぼくたちは今どこにでもアクセスできる時代に生きていて、どの世代の音楽・映像・アートを楽しんでも良いわけだから、とくにこれだけが、ってものはないと思う。

 

――自由に楽しもう、と。

 

こんなに毎日情報の消費を強いられている時代はなかったと思うし、呆然としちゃうくらい今は多くのことがとてつもないスピードで起きてるけど、同時にそれがインターネットやインターネットカルチャーを素晴らしいものにもしていると思うんだ。

ぼくにとっては、インターネットは今までもこの先もずっとホームだから。子どもの頃に見たグラフィックデザインやビデオゲームなんかを見るとつい頬がゆるむし、自分でも90年代後半からインターネット空間に落ちている残骸を使っていて、突然いい思い出がよみがえってくることもある。

 

――その懐かしさが国籍を問わずに共感を生んでいる理由なんでしょうか?

 

最近“Vapor”って単語自体がバズワードになってたんだと思うよ。でも、大企業がヴェイパーウェイヴに「Aesthetic(美学)」を感じているとしたら、とてもクールなことだと思う。

90年代のリバイバルファッションもかっこいいし。個人的にこの流れは続いてほしいな。

 

――80年代当時の楽曲を実際に制作していた日本のチームと直に接してみてどうでしたか?

 

伊豆スタジオでの経験は忘れられない。素晴らしかった。

自分がとてつもない影響を受けた世代の伝説的な日本の音楽家である、安西史孝さん、小林泉美(ミミ)さん、森英治さんたちと仕事ができたし、Night TempoやマクロスMACROSS 82-99、Desiredといった、同じ志を持ったFuture Funkのクリエイターたちからも刺激をもらった。とても嬉しかったね。

プロジェクトに参加してハードワークしてくれたみんなや、Kickstarterで資金調達をしてくれたバッカーたちにもとても感謝してる。

 

――凄いメンバーですから、楽しみにしている人は多いと思います。

 

本当に、こんなに楽しい体験ができるなんて、ありがたいことだよね。そのときの曲は完成して、もうすぐリリースできると思うよ。

 

――最後に、ファンにメッセージを。

 

最近ちょっとバタバタしているのだけど、ほかのリミックスも進行中だし、オリジナルのEPもつくってる。それもどこかで発表できると思うので、お楽しみに!

 

 

――ありがとうございました!

彼の最新情報については、、Aestheticな写真が満載のInstagramや、Twitterでチェックできます。

 

 

Licensed material used with permission by TANUKI
Top image: © 2018 TANUKI
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