#1 Vaporwave――ネット世代が生んだアングラカルチャー

Vaporwave特集 #1

伸び切ったカセットテープで聞くような音。
ザラザラとした感触のVHS的映像。
古いカクカクしたアニメやゲームのグラフィック。

80年代〜90年代の雰囲気を感じるそれらは、単にノスタルジックなわけじゃない。“Vaporwave(ヴェイパーウェイヴ)”なるムーブメントとして、今盛り上がりを見せているのだ。

アンダーグラウンドで、とらえどころがなくって、だけど、とってもクールなこのムーブメントに、ぼくはもう長いこと夢中になっている。だから、その不思議な魅力を大雑把な流れと共に紹介したい。

不気味な実験音楽に、そのルーツをみる

 

このムーブメントが生まれたきっかけは、2010年頃からはじまった実験音楽家たちのプロジェクト群だ。

1980〜90年代の楽曲を中心にサンプリングし、チョップド&スクリュードという手法を用いてピッチダウンさせたり、特定のフレーズをループさせるのが主な特徴だった。

けっこう不気味な音楽なのだけど、ある時期にいくつもの名前を使って同時多発的にリリースをしたアーティストがいて、音楽ファンの間で話題になった。それらがいつしかヴェイパーウェイヴと呼ばれるようになった。

名前の由来は、それ以前に流行していた「Chillwave(チルウェイヴ)」や、未完成のソフトウェアであることを示す「Vaporware(ヴェイパーウェア)」という言葉に似ているからだと言われている。

カセットテープ1個14万円

©2018 @sute__aca

 

その象徴的な存在が、Vektroidことラモーナ・アンドラ・ザビエル。

彼女が2011年にMACINTOSH PLUS名義でリリースした『Floral Shoppe』のカセットテープは、今ではなんと14万円以上で取引されているレアアイテムに。もはや現代アートみたいになってるからスゴイ。

音源のリリースは、データダウンロード、レコード、カセットテープ、フロッピーディスクとバラバラだ。多くはYouTubeにアップされていて、検索すると同じようなものがいくつもあることに気づく。

 

 

たとえば、上の動画は、レア物『Floral Shoppe』に収録されている楽曲『リサフランク420 / 現代のコンピュー』のMV。なんだその日本語は! って感じだけど、それもヴェイパーウェイヴの特徴。

海外で見かけるプリントTの間違った日本語みたいに、意味のわからない壊れた言葉がよく使われている。もちろん、つくっているのはほとんど海外の人々。

しかも、この動画はブートだ。懐かしいカクカクのポリゴン映像は、おそらくオリジナル音源とまったく関係がない。ジャケット写真の代わりに、ネットで拾った古い広告映像やアニメーションを、リリースされた作品に勝手に組み合わせるユーザーがたくさんいるのだ。

なかには、YouTubeから削除されるものも少なくない。一方で、3ヶ月ほどで120万再生を突破しているものもあり、同じような内容の動画がいくつもある。誰がなんのためにつくったのかわからないMVすら人気。これもオモシロイところ。

いつからか、音楽だけでなく映像との組み合わせ込みで楽しむ実験創作の場がインターネット空間にひろがっていたのだ。ジャンルも細分化され、サブジャンルがいくつも生まれていった。

 

サブジャンル・Mall Softを代表する作品。猫シCorp.の『Palm Mall』。2014年リリース。

 

匿名性が高く、情報量も多いため、どこで何が起きているのか把握するのは困難だった。リリースされたサイトに表示されているアートワークが突然変わることもあるし、YouTubeの動画はいつなくなるかもわからない。なくなったかと思えばまたどこかに現れもする。それがリリースした本人によるものなのか、ただのブートなのか、その境界線も曖昧。

つまり、それだけ多様なアプローチがあり、ゆえにヴェイパーウェイヴは大きな流れとなっていった。

とはいえ、2013年1月には、オンラインフェスティバルが開催され、初期ヴェイパーウェイヴを代表するアーティストが集まった。ちゃんとコミュニティは存在していたのだ。

インターネット空間に落ちている素材をデタラメに切り貼りする行為には、ノスタルジックな過去への逃避や、バブル期の理想像をすでに死んだものとして扱う皮肉の意味も込められている。そういった価値観や美的感覚が少しずつ共有され、支持されてきた。

また、よりダンサブルなサウンドを生み出すクリエーターも現れはじめ、Future Funkというサブジャンルも派生。それまでとは真逆のアッパーなリミックスが、さらにファン層を広げたというのも大きい。

シティ・ポップの再評価に大貢献!

 

ヒップホップアーティストが産業用のレコードを堀りはじめたように、Future Funkアーティストは、日本のコマーシャルで使われていたバブリーなシティ・ポップを再評価した。

インターネット版のレア・グルーヴとも言われ、日本のニューミュージックやポップスへの評価が世界的に高まった一因だとも言われている。

一部アーティストのリリースや、YouTubeへ投稿されているブートのなかには、アニメを短く切り、ループさせた映像との組み合わせもある。TumblrやInstagramをひとりでダラダラ見続けているような感覚で、GIF的なトランス感があるのだが、まさにGIFスタンプを使うのと同じくらい気軽な感覚で、ヴェイパーウェイヴに関連する創作物は、インターネット空間へアップロードされ続けている。

ポップアートみたいで賛否もあったが、なかには、アーティストたちと直接対峙したことがあるネタ元の日本人ミュージシャンもいて、サンプリングされる側としての意見をこんなふうに話していた。

YouTubeのブート動画はいつか削除されるだろうけれど、日本人が洋楽の影響を受けながら70年代後半〜80年代前半のポップスをつくってきたように、彼らも新しい何かを創作しているのだろう、と。

NIKEや任天堂もその影響下にある!?

 

カウンターカルチャーだったヴェイパーウェイヴの影響は、現在では企業にまで及んでいる。たとえば、NIKEはヴェイパーウェイヴモデルのウェアやスニーカーを発表しているし、任天堂のゲーム『スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション』の世界感は、その影響を強く感じさせるものだ。

そう、これまでロゴやCMをサンプリングしていたヴェイパーウェイヴは、反対に企業サイドからその“空気感”を引用されるほどに成長した。

実際、「Vaporwave」と検索すれば、いかに興味を持っている人が多いかがわかる。そして、みんなその実態をつかめているわけではない(ぼくもそうだ!)。ただ、ヴェイパーウェイヴ的なものは、身の回りに溢れている。音楽、映像、写真、イラストなど、ありとあらゆるアウトプットに、その影響が感じられるのだ。

この記事を入口にして、ヴェイパーウェイヴに関するアーティストやムーブメントの歴史をチェックしてみてほしい。インタビュー記事も順次公開予定なので、お楽しみに!

Top image: © 2018 @sute__aca
取材協力@sute__aca , tomad
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