「待ち時間ゼロ」の飲食注文サービスが、スポーツ観戦を変える!

“何か新しいこと”はいつだってウェルカム

サッカーファンなら誰もが思うだろう。「さすがは川崎フロンターレ」。2017年から2年連続でJリーグ王者に輝いている強豪クラブだが、実は、Jリーグきっての“面白いことをやるクラブ”としてもよく知られている。

例えば、地元・川崎市の相撲部屋とコラボする。例えば、市内の小学生が使用する算数ドリルをプロデュースする。例えば、西城秀樹さんがスタジアムで『YMCA』を歌う。例えば……と挙げればキリがない。このクラブのセルフプロデュース力、セルフプロモーション力は、スポーツ業界でも群を抜いている。かつてはその部分ばかりがクローズアップされて“面白いクラブ”としての印象が先行しがちだったのだが、2年連続のリーグ王者に輝いたことで鬼に金棒となった。強さも面白さも日本一だ。

ではなぜ、今回も川崎フロンターレは“新しいこと”にトライしたのか。このプロジェクトの舵取り役であるというスタッフの谷田部然輝さんに聞いた。

「昔からよく知っている人から連絡があって、現役東大生の社長さんを紹介したいという話だったんです。もともと僕らにも『プロスポーツクラブとして若い世代のビジネスマン育成にも貢献したい』という思いがあるので、『喜んで』と。そういう流れで、ダイニーの山田社長と会うことになりました」

近頃の学生は起業に対するハードルが低い。警戒心はなかったのか。

「いやいやいや、話を聞いたら面白そうだったので即決だったんですよ。山田くんは爽やかだし、サッカーも大好きだし、話を聞いた瞬間に『やろう!』と。その後も早かったですね。2月22日の夕方に打ち合わせをして、次の週の鹿島アントラーズ戦の時にはもう実現してましたから(笑)。そこからは毎試合どんどんチャレンジして、少しずつサービスとして充実させて」

チケットやグッズの事業、ファンクラブ、さらに施設の管理なども担当する“何でも屋”の谷田部さんは、川崎フロンターレ在籍19年目のベテランだ。つまり彼の体には“イズム”が染みついており、いかにも“フロンターレの人”という考え方をする。興味があるならビビらずにトライ。これが鉄則だ。

「“何か新しいこと”に対してはクラブとしてもウェルカムで、そういう姿勢をちゃんと理解している社員が多いし、それが社風みたいなものですから。とにかくやってみる。先頭を走りたいという気持ちももちろんあります。一番という響きは好き。それから、僕らには考え方としてちゃんと立ち返る場所があるんですよ。地域性と話題性、それから社会性。その3つが揃っていたら、迷うことなくチャレンジする。一番ならなお良しってね(笑)」

誰かひとりが得するビジネスは面白くない

©細江克弥

ダイニーのチャレンジがスタートして数カ月。利用者からの評判は上々で、ダイニーはJリーグの他のクラブでもサービスを開始し、その噂はスポーツ界全体に広まりつつある。そのきっかけを作ったのが、川崎フロンターレだ。

このサービスには地域性も話題性も社会性も確かにある。試合を観戦するサポーターの満足度アップは地域性に直結するし、プロスポーツクラブとして若い世代のビジネスマンを少しでもバックアップすることには社会的な意義があり、もちろんそうした活動にはクラブの価値を高めるだけの話題性がある。

谷田部さんが言う。

「勢いで始めちゃってると思われがちなんですけれど(笑)、ちゃんと冷静な目も持っているつもりで。例えば今回なら、生まれたばかりのダイニーという企業と新しいことを始める中で、僕らにとっても大切な気付きが必ずあるんです。だから、一度始めたらちゃんと向き合ってやる。それが次につながる経験になりますから。それに、彼らのような若い世代に対しては、純粋に頑張ってほしいと思える。見守ることの楽しみもありますよね」

果たして、ダイニーと川崎フロンターレが始めた取り組みによって、ストレスなく「右手にビール。左手につまみ」を手にする理想的なスポーツ観戦スタイルは実現するだろうか。谷田部さんは笑った。

「そこまで持っていけたら、もうみんながハッピーですよね。でも、そうあるべきだと思いますよ。誰かひとりが得するビジネスは面白くないし、続かない。僕らはこれからもずっと存在していくプロスポーツクラブだから、長く続くものを作っていきたい。その可能性を、若い世代の彼らと一緒に追求できるって最高じゃないですか(笑)」

サッカー界に改革を起こし続けてきたフロンティアスピリッツに、川崎フロンターレの“中の人”が言うのだから期待してしまう。ビールとつまみ。スポーツ観戦のゴールデンコンビを並ばずにゲットできる時代は、すぐそこに迫っているのかも。

Top image: © Etsuo Hara/Getty Images
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