「アカツキ」CEOが考える「働くうえで大切にすべきこと」とは?
「世界に夜明けを!」というコンセプトを掲げて小さなマンションの一室からスタートし、2020年に創立10周年を迎える「株式会社アカツキ」。2018年度決算で通期売上高281億円、営業利益136億円という圧倒的なパフォーマンスを見せる話題の企業を束ねるCEO・塩田元規氏が、先日、書籍を上梓した。
『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』──。
急速な成長を遂げ、各界から注目を浴びるアカツキ、そして塩田氏が綴り、語った「働くうえで大切にすべきこと」とは?
「アホなことをやってほしい。
クリエイティブなことが生まれるから」
──書籍のタイトルにある「ハートドリブン」。あまり聞きなれない言葉なんですが、そもそもどういった意味なのでしょう?
そうですね、ドリブンには「◯◯に突き動かされた」という意味があるので、ハートの部分……つまり、自分の内側にあることを意識して、何かの行動を起こすことをハートドリブンという言葉で表現しています。
みんな、外側に正解を求めることが多いと思うんですけど、エモーショナルな部分やワクワクすることに注意を傾けて欲しいんですよね。
あとは、ただ単に感情に従うことだけではなくて、自分の感情を大切にすることによって、自分自身がもっと大きくなっていく……それを僕は“旅をする”と言うこともあるんですけど、その旅をしていくことが“ハートドリブンに生きていく”ことだと思っています。
究極、自分を生きるってことにほとんど近いのかなと考えていますね。
──最近、自分がハートドリブンしたなと思うことは?
本を出版するにあたって、ミュージックビデオを作ったことですね。
わざわざレコーディングスタジオで収録して、撮影のために屋久島まで行って、(株式会社アカツキ)COOの(香田)哲朗と一緒に山に登って、森に入って、岩の前でギターを弾くっていうアホなことをやりました。
──周りの反応はどうでした?
バズるかな〜と思っていたんだけど、みんな本の最後にQRコードで載せているミュージックビデオの存在には気づいてくれない(笑)。
経営者ふたりが休みをとって屋久島まで行ってミュージックビデオを撮るなんてとても不合理だけど、僕はスゴく楽しかったんですよ。とにかく夢中になっちゃいましたね。
今回の曲を作ってくれたメンバーのひとりが“ハートドリブンバンド”をやろうという企画書を作ってきて、いろんなアーティストとコラボしながら、「紅白目指せるんじゃない?(笑)」なんて言ってます。
歌う経営者を出場させてくれるようになったら、本当に日本は変わると思うんですよね(笑)。
──塩田さん、スゴく楽しそうですね。
僕は楽しむことがすごく大切だと思っていて、今って、マジで遊ぶことが足りていないんじゃないかな。
ビジネスの世界では、「それやる意味あるの?」なんて言葉で一蹴されちゃうことが多いんですけど、それって、「意味のないことはやってはいけない」というメッセージになってしまうんですよね。
でも、意味のあることだけをやっていたら、クリエイティブなことなんて生まれませんよ。
今までの企業のコアコンピタンス(他社より圧倒的に優れている点)って効率性や合理性にフォーカスされていたけど、すでにそんな時代ではなくなっていると思っています。だからこそ、社員にクリエイティビティを求めている企業もあるんですけど、無理じゃないかなと感じることもあります。
──本の中では「無駄・無価値・無邪気」を大切にしているとおっしゃっていました。
無邪気にやる人って、勝手に努力する。放っておいても、どんどん積極的に何かをやってくれるんですよ。そんな無邪気さが必要だと思う。
あと、無駄なことだけをやる人っていないでしょ、さすがに。多分バランスをとってくれると思う。やられすぎたら、倒産しちゃうけどね(笑)。
僕は「無駄・無価値・無邪気」を許していく組織の方が、結果的に効率も上がるし、モチベーションも上がると思っています。
そして、みんなにはアホなことをやってほしい。そこからクリエイティブなことが生まれるから(笑)。
「仕事の話をしないで雑談をしてみる。
結局、それが一番大事」
──でも、自分にとっての遊びや本当にやりたいことを自己認識している人って少ないのでは?
あ〜なるほど……じゃあ、少し極端な例で説明しますね。
やりたいことのあるメンバーがいたとして、それを任せたい気持ちはあるんだけど、能力が足りないことを指摘して、違う人に頼んだとします。その時に「あ、そうなんだ。自分の能力が足りないんだ」と思ってくれればいいんですけど、多くの人は「あ、オレってダメなんだ。この会社にいてはいけないんじゃないかな?」とネガティブな妄想がはじまってしまうんですよ。
そういう人は自分が否定された気になって、ワクワクしていることを共有しなくなってしまう。で、もっとよくないのは、やりたくないことでもやりたいと言うようになる。
本当の心の底にある考えは違うはずなのに、成果を出して誰かに認めてもらうために仕事をするようになっちゃうんです。
こんがらがってしまうことはしょうがないから「君の存在を否定しているワケではない」と切り離してあげるのが大切なんです。
それをアカツキでは“分かち合い”と表現して、会社として大切にしていることのひとつにしています。
──分かち合い、ユニークですね。
分かち合いは本当に効果がありますよ。
やり方としては簡単で、真実をすべてテーブルにあげるだけなんです。そうすれば、何もかも解決できる(笑)。
昔働いていたエンジニアが、僕から見て、とてもじゃないけど楽しそうに働いているとは思えなかった。リーダーとして、どうにかしてワクワクさせなきゃと思って、いろいろと頑張ってみたんだけど、あまり効果はありませんでした。
そこで、正直に聞いてみたら「え?オレ、めちゃくちゃ楽しんでますよ?」なんて言われて(笑)。「楽しんでいて、なんでそんな顔してるの?」とツッコミを入れたんだけど、そのときは本当の気持ちが僕らの見えるテーブルにあがっていなかったんです。
世の中のマネージャーって、損得ばっかりの話をするから、みんなの感情を汲み取れないんですよ。なんだかんだ仕事に関係ないものとして、感情を切り捨ててしまうこともあるし。
──たしかに自分の上司に正直に話をするって難しいですよね。
そう。ただ覚えておいてほしいのは、相手に感情をぶつけることとは違うってこと。「お前、ムカつくんだよ」ではないんです。
「自分はイライラしています」という事実をテーブルにのせて、気持ちを分かち合うんです。
すると、安心と安全が確保されるから、話が進みやすくなる。これもまた、結果的に効率が上がるんですね。
──「イライラしています」で効率アップ!
今のビジネスの世界って、感情を切り捨てすぎちゃってきたから、ロボットみたいに頑張り続けなければいけないんです。
でも、感情・意識の成長が大切。
表現を変えると“自分の器の成長”という表現になるんですけど、それを通して自分の感情を少しずつ理解するのが重要になってきます。だから、僕は自分の内側の根っこを育む時間を持って欲しいと思っています。
そのひとつの方法としてあるのが、瞑想です。僕自身もやっているし、アカツキとしてもマインドフルネス業界に注目しています。これがなんでかっていうと、そもそもビジネスは人々の生活をフィジカルにもエモーショナルにも豊かにしていくための手段だと思っているんですけど……現実はそうじゃないことが多いような気がしませんか。
──ですね(笑)。
なぜか苦しんでいる人がいる。なぜか辛い思いをしている人がいる。本来、ビジネスはそんなもんじゃないんですよ。
苦しみや辛さを解消できる手段として、瞑想やマインドフルネスは大事。そうじゃないと……いつか枯れるから。どんなに大きくなれても、根っこを意識しておかないと、いつかダメになっちゃう。
ちゃんと自分の内側を気にかけてあげることで、器を成長させることができて、素直に感情を表現できるし、誰かを許せることも増えていく。
シンプルに言えば、幸福になりますよ。
──上場企業のCEOとは思えない言葉!
同じようなことをほかの人も思ってくれたのか、Twitterでは僕の本を読んで共感してくれている人やいい感じで評価してくれている人が多いですね。素直に嬉しいですよ。
でも、言い方は極端だけど、ビジネスをやっていない人が同じメッセージを発信しても、きっと届かない。ビジネスパーソンには伝わらないと思うんですよ。
起業して1〜2年は、ビジネスに振り回されていた自分もいたし、言いたいことを怖くて言えない自分もいた。とはいえ、目に見えないものを大切にすることや数字だけでは分からないことを評価するのは、ずっと重要だと思っていました。
──『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』の内容を通じて、そのメッセージが伝わってきます。
もちろん、ひとつだけの理由で出版したわけではないですけど、そのメッセージを伝えるのは僕の仕事だと思っています。
あと、みんなにはハートドリブンに生きるために少し立ち止まって欲しい、とも。急ぎ過ぎだから(笑)。
5分間、深呼吸をして、自分が何を感じたのかを考える時間をとってみてください。日常のなかで自分を育むって、なんども言っているけど、スゴく大切なんです。
仕事にどう活かすのかを考える前に、自分の頭の中で整理をしてみる。あとは、すぐに仕事の話をするんじゃなくて、雑談をしてみる。相手の顔を見て、どうでもいい話をする。
結局、そういう時間が一番大切なんですよ。
1983年 島根県出雲市生まれ。横浜国立大学電子情報工学科を経て、一橋大学大学院 MBAコース (現:一橋ビジネススクール MBA)修了。新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、広告事業に従事。マネージャー、ディレクターを経て、2010年6月に香田 哲朗(取締役COO)とアカツキを創業。自分たちがワクワクしながら作ったものが誰かの心を動かし、一人ひとりの人生を豊かに色づけていくと信じて、活動の幅を広げながら急成長を続けている。
『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』
“魂”を進化させるとあなたはもっと輝く。合理的に正解を出せる時代は終わった。
売上高281億円・利益136億円“大成功”企業アカツキ社長の独自哲学。
著:塩田元規 発行:NewsPicks Book