絶景……とは違うけど、徳之島の「国産コーヒー」と一緒に味わってほしい風景があります
先日飲んだ奄美・徳之島産の国産コーヒーが、どんな有名カフェのコーヒーよりも美味しかったのは、もちろん生産者たちの努力の賜物だ。取材を通して、カップに注がれて私の目の前に置かれるまでの全てのストーリーを、彼らの思いと共に知ることができたから、というのもある。
でもそれだけじゃない。
そこに加えて徳之島の土や水や空気がこの味を作った部分もあるんじゃないかなあ。島に滞在している間、目の前を通り過ぎてゆく徳之島のさまざまな風景を眺めている間や、帰路の飛行機の中、東京に戻ってからも、しばらくそんなことを考えていた。
だからもし、徳之島の国産コーヒーの記事を読んでくれて、「飲んでみたい」と思ってくれた人がいるならば、やっぱり私と同じようにそのコーヒーが育った土地、つまり徳之島へ行って飲んでみることを一番におすすめしたいと思う。
人でごった返すような派手な観光シンボルはないけれど、なんだかホッとする風景がたくさん広がっている徳之島を感じれば、そこで作られているコーヒーがそんなにも美味しいことに、きっと誰しも納得がいくはずだ。参考までに、私の中でコーヒーを美味しくした徳之島の景色をいくつか紹介しておきます。
300歳のガジュマル
伊仙町の阿権(あごん)という集落にある樹齢300年以上と言われているガジュマルの木。宮出珈琲園の取材の帰り、「あれは見ておいた方がいいよ」と言って宮出さんが案内してくれた。根っこがトンネルのようになっていて、とにかく大きい。300年も前といえば、日本は江戸時代の中頃。そこから様々な時代を通り抜けて、ずーっとここに立っていることを思うと、なんだか、ガタガタしていた心の紐が、ピッと張られてフラットになったような感じがした。「変わらないもの」には時に人を安心させる力がある。
ちなみにガジュマルには、精霊が宿っていると言われているが、この木にもきっといると思わざるを得ない存在感。精霊は、沖縄では「キジムナー」というが、徳之島ではそれを「ケンムン」と呼んで親しまれているそうだ。
島時間な動物たち
徳之島は、「闘牛」が有名だということを知っている人は多いかも知れない。実際の試合は見られなかったけど、海の写真を撮るために砂浜に下りた時、ちょうどそこでトレーニングをしていた闘牛たちが帰って行くところに遭遇した。
よく見ると、中〜高校生くらいの男子がまるで犬の散歩をするかのようなテンションで牛の綱を引いている。なんだかほっこり。道路を横断する牛たちにも遭遇する。そういう時は牛たちが優先だ。車はスピードを落とし、牛たちが道路を渡りきるのを見守るのが島のスタンダード。
最近では畜産業も盛んになり、島の各所でのんびり放牧されている牛たちにも遭遇する。ヤギや猫やヤドカリも、みんなのんびり島時間の中で生きている。
オープニング感満載の海
島の滞在中、ちょうど台風の直撃を受けていたので、イメージしていたような「穏やかに広がるエメラルドグリーンの海」を見ることは叶わなかった。実際に見たのは、東映映画のオープニングみたいな(伝わるかな?)海。岩に波がざっぱーん、と打ちつける様子も、まあ、それはそれで乙。
一日だけうっすら夕焼けが望める日があって、急いで海に向かったら、そこにはウユニ塩湖さながらな光景が。場所は、たしか伊仙町役場から自家焙煎珈琲スマイルへ向かう途中のあたり。
もう一つ印象的だったのは、あちこちの砂浜で見かけた謎の囲い。島の方に聞けば、「毎年徳之島の砂浜にやって来るウミガメの卵がここにありますよって印です」とのこと。島全体で、ウミガメを守っている。「もしかすると今日は満月だから、卵が孵化して亀たちが海に帰って行くのを見られるかも知れませんねえ……」。そんなつぶやきを聞いてしまい、取材終わり特に予定がない私たちは、夜な夜な深夜まで囲いの中を覗き込む怪しい二人組と化したけど、残念ながら子ガメたちには会えなかった(警戒されたのかな?)。
そこに暮らす生き物や人、日常の景色、時に顔を見せる絶景などを肌で感じながら飲むことで、一杯のコーヒーがきっと忘れられない味になる。だからやっぱり、徳之島で作られた国産コーヒーは、現地に行って飲んでほしい(しつこいですね)。
まだまだ、おすすめしたいものはたくさんあるけど、今回はこの辺で。
晴れた日に、公園の芝生の上で食べるお弁当は、会社や学校の休憩スペースで食べるお弁当の100倍美味しいなって、思ったことないですか? 将来、徳之島のコーヒーがもっと気軽に飲めるようになったら、こうした「景色」や「風」の中でも飲んでみたいなあと思う。きっと、ため息が止まらないほど美味しいに決まってるから。