無愛想なバス運転手の「予期せぬ優しさ」

NYで暮らすようになってから、俺はいささかスノッピーになったと思う。

スノッピーとは、ツンケンした感じ、サバサバした感じ。日本にいた頃は、割と誰にでも愛想よく、いつもニコニコ、悪く言えば八方美人にしていた。

でもそれだとコッチではナメられるのだ。というか軽くあしらわれる。

モチロン、目が合えばニコッと笑って挨拶をするし、積極的にコミュニケーションもとるけど、NYでは人種、性別、社会的背景など、いろんな人が集まっているので、常識というものが通用しない部分がある。だから、日本以上に他人へのリスペクトやマナーを重視する。スノッピーとは言っても、傍若無人に振る舞うようになったわけじゃない。

ただ、自分の主張を大声で叫ばないと通らないような街で、ヘラヘラしてたら後回しにされる。いつも「自分」というものをしっかり持っていないとあらゆる局面で流されてしまう。

だけどそんな街で暮らしていると、時々ふと人情に触れた時、とても心が和らぐ。

先日、バス停でこんな一幕があった。

©DAG FORCE

NYの市営バスには、「急行」を意味する「LIMITED」便がある。その時、俺が待っていたのは、LIMITEDが停まらないバス停だった。15分以上も待ったあげく、バスは目の前を通り過ぎていく。その時バスの運転手と目が合ったが、そのまま通り過ぎて行ってしまった。俺は急いで1ブロック先のバス停まで走る。200〜300メートルを全力疾走。信号待ちしてるバスを追い越して、次のバス停で追いついた。

そして、バスは停まりドアがあいた。並んでいた人々に続いて、最後に乗り込んだ俺に運転手が無愛想なままでこう言った。

「本当はこのバス停も停まらないんだ。君が前のバス停から走ってるのが見えたから」

笑顔こそ見せないけど、なんだかうれしくなった。

NYに暮らしていると、人々の傍若無人な態度や利己的な主張に辟易とすることがある。でも一方で、こうした予期せぬ優しさや人情にふれることも多い。

厳しいのか、優しいのか。不思議な街だ。

基本的には、NYは弱肉強食の街だし、殺伐としたコンクリートジャングル(エリアにもよるけれど)だと思う。だからこそ、みんなが日々のちょっとしたコミュニケーションやこうした優しさを時々意識して、バランスを取っているのかもしれないな、と思った。

DAG FORCE/Rapper

1985年生まれ。NYブルックリン在住のラッパー。一児の父。飛騨高山出身身長178cm。趣味は、音楽、旅、食べること、森林浴。 NY音楽生活の中で気付いた日々是ポジティブなメッセージを伝えていきたい。

Top image: © DAG FORCE
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。