タクシー運転手が教えてくれた人生の教訓。「日本人が忘れてしまったもの」とは

経営コンサルタントを営む小宮一慶さんは、仕事柄タクシーに乗る機会が多く、当然運転手さんと話すことも多いそうです。そして、タクシーの運転手さんにはじつにさまざまな経歴を持つ人が多く、その会話にはたくさんの人生の教訓が詰め込まれているのだとか。

そんな小宮さんの体験を綴った書籍が『人生と経営はタクシー運転手が教えてくれる』。今回はブラジル移民として育った、ある老齢の運転手さんのエピソードを紹介します。

日本の豊かさは先人の苦労の賜物
けっして「あたりまえ」ではない

タクシー運転手さんと話していると、ときどき思わぬ経験をされた人と出会うことがあります。ある日、小宮さんが乗ったタクシーの運転手さんもまさしくそんなひとり。話によると、小学校を卒業する前に、家族で移民としてブラジルに渡ったというのです。当時は移民が行われていた最後の時期。ブラジルのなかでも奥地に行くことになり、開墾できる土地の条件も悪く、食べるのにも困るほど、大変苦労されたそうです。

その後、小宮さんはブラジルに行く機会があり、そのときにサンパウロの日本人会やサントスという港町の日本人会で多くの日系ブラジル人に会ったそうです。そこで印象深かったのが、彼らが持つ「日本人の誇り」。彼らがよく言ったのが「日本人よりも日本人の考え方が残っている」「気持ちは日本人よりも日本的だ」といった内容のことで、実際に彼らは日本人だけで学校を作り、日本語や日本文化、しきたりや習慣などを子どもたちに教えたそうです。

小宮さんも「彼らは日本にいる日本人より日本人らしい」と率直に思ったそうです。現代の(日本にいる)日本人が忘れてしまっているもの…義理、人情、まじめさ、愚直さ、努力…を、まだ多く持っているように感じたのです。

今の日本人の多くは「食べるものがない」という経験をしたことがありません。戦争も内戦も知りません。平和ないい時代に生まれ、暮らしています。だからせめて「先人たちの、言葉にできないような苦労と努力があって、今の私たちがある」ということを知っておく必要があるのではないでしょうか。

ブラジル移民だったタクシー運転手さんは、ブラジルで苦労されたあと、両親が亡くなられたのを機に、日本へ帰ってきたそうです。いまでは自分の力で稼いで、そこそこの生活ができることに満足しているようでした。

過酷な運命をたどった末にたどり着いた「タクシー運転手」という仕事を日々こなす彼に出会ったことで、日本の先人にあらためて思いを馳せ、感謝することの大切さを思い出すことができたそうです。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。