「木と森は同時に見られるんだ」。人生の大切なことはタクシー運転手に教わった

タクシーの運転手さんにはさまざまな経歴を持つ人が多く、じっくり話を聞くと、面白い人、勉強になる人、じつにバラエティに富んでいます。

経営コンサルタントを営む小宮一慶さんも、そんなタクシーの運転手さんに着目。人生の教訓を彼らから学んだと言います。著書『人生と経営はタクシー運転手が教えてくれる』より、興味深いお話を紹介しましょう。

すぐできる目の前の小さなことを
おろそかにしてはいけない

「木を見て森を見ず」という言葉があります。目の前の小さなことに捉われて全体を見ないという意味ですが、小宮さんは木と森はそのどちらかではなく、同時に見るべきだと言います。

あるとき、小宮さんが乗ったタクシーの運転手さんといつものように話をしていると、娘さんが2人いることがわかりました。上の子は高校受験。滑り止めの私立は合格したが、公立受験はこれからとのこと。「公立に行ってもらわないと、私立の学費は高いですからね。私の稼ぎだけでは生活していけませんよ」と運転手さん。バブルの頃ならいざ知らず、昨今の規制緩和もあって、タクシー運転手の生活は決して楽なものではありません。そして運転手さんは続けて「今日は下の子の誕生日なのですが、ケーキは我慢してもらいました」と言います。

突然の話だったので、小宮さんはそのままタクシーを降りてしまいましたが、タクシーが走り去るのを見ながら「何も言わずに3,000円渡せばよかった」と、未だに後悔しているそうです。たまたま乗ったタクシーで、何もそこまでする必要はないかもしれません。また、お金を恵んであげるような行為は相手に失礼で、場合によっては怒り出す可能性もあります。それでも小宮さんは「やはりお金を渡すべきだった」と思うのです。

タクシー産業全体のことを考えて、制度やルールを変えることは重要なことです。経営コンサルタントとして、小宮さん自身もタクシー会社がいかに利益を上げられるようになるか、車の稼働率を向上させるかを考えること、すなわち「森を見ず」にならないよう、視野を広げて大きく考えることは重要だと思っています。しかし同時に、あえて目の前の木をよく見て、その木のためにできることを考えて実行することも欠かせないことではないでしょうか。

目の前の木をおろそかにする人が、本当に森全体を良くすることができるでしょうか。本気でなにか大きなことをやろうと思って真剣に考えれば、いまできることもまた、必ずあるのです。

「ケーキを我慢してもらいました」と言ったタクシー運転手さんにも、小宮さんは結局なにもしてあげられませんでした。だからこそ思うのです。「やろうと思えばすぐにでもできる目の前のことを、おろそかにしてはいけない」と。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。