「ベーシックインカム」って?無条件にお金がもらえるってどういうこと?
コロナウイルス感染症支援策の1つとして実施された、全国民への10万円給付。
この特別定額給付金をきっかけに、メディアなどで議論が盛んになってきたのがベーシックインカム。
ここではそんなベーシックインカムの意味や今注目される理由を紹介していきたい。
ベーシックインカムって何?
ベーシックインカムとは、「個人が最低限の生活を送るために必要とされる基本的(ベーシック)な所得(インカム)を現金給付の形で保障する制度」のこと。(参照:人事労務用語辞典)
つまり、財産や仕事、性別に関係なく、基本的な生活を送れる最低限のお金を保証しますという制度だ。また、ベーシックインカムという言葉は、「ユニバーサル・ベーシックインカム」やその頭文字をとって「UBI」と呼ばれることもある。
従来の現金給付型の社会保障制度を使う際には、細かい条件があり、申請をする必要があった。対してベーシックインカムは、全員に無条件に適応される保証であるため、そのフローを簡潔にすることができると考えられている。
なぜ今ベーシックインカムが注目されているの?
なぜ今ベーシックインカムについての議論が盛んになっているのか。そのきっかけは、新型コロナウイルスの影響により、多くの人が国や自治体からの福祉支援を必要とするようになったこと。
失業者や職はあっても収入が減ってしまった人たちは、条件を満たしている場合、国から失業手当てなどを受け取ることができる。だが、受け取るためには細かい条件をクリアし、国や自治体に申請、その後、行政側の書類確認や審査を経て、やっと保障を受けることができるというように、条件や手続きが複雑で時間がかかる。
しかし、こうした制度に申請する人は、家賃や光熱費を払えなかったり、今日食べるものが買えなかったりなど、切羽詰まった人たちも多い。こうした複雑で時間がかかる行政の仕組みを問題視する声もある。
また、近い将来「AIが人の仕事を奪うようになる」というのは聞いたことがある人が多いはず。今までの面倒だった作業が削減されたり、仕事が楽になったりとメリットもある一方で、仕事をロボットに奪われてしまう職業が出てくることが心配されている。
こうした失業者への対策として、無条件で定期的に最低限の保証が支給がされる制度“ベーシックインカム”の導入が盛んに議論されているのである。
ベーシックインカムの懸念点
財源の確保
ベーシックインカムについてわかってきたところで、1番気になってくるのが「お金はどこから出るの?」というところではないだろうか?
まず、ベーシックインカムとは、既存の社会保障制度(年金や失業手当など)を一本化したシステムといわれている。財源についても同じで、既存の保障の財源がベーシックインカムの財源に充てられると考えられている。
厚生労働省から発表されている資料によると、2019年度の社会保障給付費(予算ベース)は123.7兆円。ここから医療費の39.6兆円を引くと84.1兆円がベーシックインカムに充てられることがわかる。しかし、月7万円を全国民約1億2500万人に配ったとすると、約105兆円が必要になる。となると、これはざっくりとした計算ではあるが、日本でベーシックインカムを導入するには、かなり財源的なハードルがあるといえるだろう。
労働意欲の低下
前述した通り、ベーシックインカムを取り入れられた場合、生きていくための最低限のお金が無条件に受け取れる。つまり、働かなくても生きていけてしまうのだ。日頃、会社での環境によるストレスや不満な待遇を受けている人たちが、働かなくなってしまうかもしれない。また、労働者が減ってしまうことで、今までうまく回っていた事業等も人手不足の観点から影響を受けてしまう可能性があることが懸念されている。
個人の責任が求められる
ベーシックインカムの導入によって、個人が考えなければならない責任の範囲が広がることも懸念点の1つだ。これまでは、例えば失業保険のように、万が一のことがあった場合に国や自治体がサポートしてくれる機会があった。しかし、ベーシックインカム制度は、既存の社会保証制度の代わりとして導入されると考えられており、万が一のサポートがベーシックインカムに含まれているといえるのだ。つまり、社会保障として支給されるお金の使い道は自由にはなるが、万が一の際の責任も全て自分で負わなければならないのである。
フィンランドのベーシックインカム導入例
ここでは、2017年から2018年にかけてベーシックインカムの社会実験を行ったフィンランドの事例について、WORLD ECONOMIC FORUMに掲載されている、経済政策ジャーナリストのジョセフ・ゼバロス-ロイグ氏の『Finland's basic-income trial found people were happier, but weren't more likely to get jobs』という記事を参考に紹介していく。
この実験では、25歳から58歳で失業中の2000人に対して、毎月560ユーロを支給。就職後もベーシックインカムの支給額は変わらないため、低収入でも働こうという人が増えるのではないかという期待のもと始まった。そして、フィンランド政府はその結果を次のように発表したという。
Participants were happier when given free money, but they were not any more likely to land a job
(参加者はお金を支給されることで幸福にはなったが、就労率を高めるには至らなかった)
つまり、フィンランド政府の期待通りにはならず、制度は十分に機能したとはいえなかったのである。
ただ、フィンランド国民は、ベーシックインカム導入に対し前向きな姿勢を示しているそうだ。あとはシステムとしてどう構築していくかが要となりそうだ。
まとめ
紹介してきた通り、ベーシックインカムとは既存の社会保障制度の一本化を現金支給によって実現する政策。一見、無条件にお金がもらえる素敵なシステムにも思えるかもしれない。だが、これを国のシステムとして本格的に導入していくには、まだまだ議論を重ねていく必要があるようだ。