独学の日本食で「あの星」を獲得した奇跡のスペイン人、フリアン・マルモル【第1回】

「独学で日本料理を学び、ミシュラン一つ星を取るスペイン人がいる」──こんな話、信じられますか?

近年では日本でもスペイン料理が流行り、「ENEKO TOKYO」や「JOSE LUIS TOKYO」など、スペインの有名レストランが日本に店舗をオープンするまでになりました。同じように、欧米でも日本食文化は非常に注目されるようになり、多くのシェフにインスピレーションを与えています。

今回はそんな日本料理をスペイン人の視点から再解釈し、日本料理の新たな可能性を世界に提示して認められた、スペイン・マドリッド「Yugo The Bunker」のオーナーシェフであるフリアン・マルモル氏への独占インタビューを敢行しました。

全3回の最初となる今回は「日本食が人をときめかせる理由」をテーマにお送りします。

フリアン・マルモル/Julián Mármol

「Yugo The Bunker」オーナーシェフ、「OKASAN」共同創業者。自動車業界から一転して独学で日本料理研究と会員制レストランを開始。後に「Yugo The Bunker」をオープンし、2018年にミシュラン一つ星を獲得。日本料理をスペインの独創的な創造力と視点で解釈した料理が高く評価されている。日本食レストラングループ「OKSAN」を展開するほか、数々のプロジェクトを牽引。

──まず、どういった経緯でシェフになったのかを教えてください。

 

そのまえに、私は独学で料理を学び、想像力に富み、純粋な味と日本の洗練された料理を愛する一人の人間であることをお伝えしておきます──。

私は、もともとは自動車業界でキャリアをスタートさせたマドリレーニョ(マドリード出身の人)です。ところが運命のいたずらか、外国貿易の修士課程でアジア研究を専門にしていたときに日本料理に触れ、どうしようもないときめきを覚えました。

私は日本食の複雑さとそのなかにあるシンプルさ、美しさ、そしてユニークな味に夢中になったんです。

私の人生における情熱は、自動車とガストロノミーですから、これまでこの2つにプロとして専念し、自分の好きなことを楽しむことができたのは非常に光栄なことだと思っています。

 

──自動車業界出身のシェフというのは異例ですね。なぜ「Yugo The Bunker」をはじめたのでしょうか?

 

Yugoは、私の日本食への愛を具現化したプロジェクトでした。私が作ったもの、私が見た日本料理を理解し、そして好きになってくれる人たちと共有する場を作りたいと思いました。

何年もの研究の後、実際に共有できる場所を作りました。

最初に形になったのは、アルカラ通りにある小さなテイクアウェイ・レストランで、後に私の夢が実現したのが「Yugo The Bunker」でした。そして、2019年にミシュランの一つ星を獲得し、それまでの努力が報われました。

スペインにあるYugo The Bunkerの店内
© 2021 1900kelvin

──「Yugo The Bunker」とそのコンセプトの意味するところはなんでしょうか?

 

Yugoは、料理への絶対的な情熱、原材料への無条件の愛情を特徴とする特別な空間です。

世界各地から取り寄せた天然魚や原産地呼称(※)のある材料のなかから、独自に選び、そのポテンシャルを最大限に引き出して料理に反映させることを心がけています。

また、「Yugo The Bunker」は、伝統的な居酒屋をイメージした一階エリアと、狭い階段を下りて日本の地下壕を再現した秘密の空間の2つの異なるエリアで構成されています。どちらのエリアでも和の雰囲気のなかで食事を楽しむことができます。

日本に行ったこともなく、独学で料理を学んでいた私が、ヨーロッパで初めて作った日本のプライベート・オート・キュイジーヌ・クラブです。

スペインにあるYugo The Bunkerの店内
© 2021 1900kelvin
スペインにあるYugo The Bunkerの店内
© 2021 1900kelvin

──じつにおもしろいですね。それでは「Yugo The Bunker」の料理をどのように定義しますか?和風、フュージョン、それともまったく新しいものでしょうか?

 

日本の伝統を研究し、深く尊重しながらも、より西洋的な味や世界中の素材を使って卓越したものを探求するという、日本食に対する新しいアプローチであり、まったく新しいものだと思っています。

それは、100%独学で学んだ日本料理といってもいいでしょう。

私は、創造性に限界のない真っ白なキャンバスから出発し、料理に多大な尊敬の念を抱いています。混乱のない融合ともいえるかもしれません。

 

──スペインにも素晴らしい食文化があるなかで日本食を選んだ理由、または魅力を感じた理由はなんですか?

 

私は日本の食における“美”に惚れ込みました。

その厳格さと規律、そして何よりも味の純粋さ、料理と原材料の選択、カット、食感などに惚れ込みました。

それぞれの料理を理解し、脂肪、繊維、筋肉、水分などの完璧な調理ポイントと、素材を最大限に活用する方法を研究することに情熱を注いでいます。日本食のあり方が私の性格や人生観に合っているのです。

【取材後記】

私たちにとって日本食はあまりにもありふれた存在ですが、フリアン・マルモル氏との会話を通じて、日本人がまだ気がついていない日本食のポテンシャルを感じることができます。

慣れ親しんでいる味も確かに素晴らしいですが、まったく別の視点から日本食を知ることで、私たちの日本食に対する考え方を大きく変えることができるかもしれません。

次回の記事では彼の仕事観について迫りたいと思います。

【第2回】は6月22日19:00公開

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