独学でミシュラン星を獲得した日本食シェフ「フリアン・マルモル」の情熱【第2回】
独学で日本食を学び、ついにはミシュランの星を獲得するに至ったスペインの新星シェフ、フリアン・マルモル氏。
前回は日本食に対する情熱に触れましたが、今回は彼の仕事観に迫りたいと思います。
もともとは自動車業界にいたという異色の経歴を持つ彼の考え方や生き方から、人生や仕事を充実させるためのヒントを見つけられるかもしれません。
全3回の2回目は、マルモル氏のすべての行動と思考を司る「情熱」について──。
「Yugo The Bunker」オーナーシェフ、「OKASAN」共同創業者。自動車業界から一転して独学で日本料理研究と会員制レストランを
──「Yugo The Bunker」をはじめるまえはまったく別の業界にいたフリアンさんですが、人生を変える最大のきっかけはなんだったのでしょうか?
ガストロノミーの仕事を始めるまえは、自動車会社で13~14年間、管理職を務めていました。
アジア研究を専門とする外国貿易の修士号を取得していたときに、偶然にも私のもう一つの情熱である日本食に出会いました。カサ・アジア(スペインにあるアジア文化センター)では、生の素材の食感や大豆、酢飯などを発見しました。
そこから情熱が生まれ、必然的に私の人生を大きく変えることになりました。
私は独自に研究、練習、実験をはじめました。新しい変化と挑戦に恐怖心はなく、むしろ尊敬の念があり、どうにかしてやり遂げたいと思っていました。
──フリアンさんの料理はどれもユニークですが、新メニューの開発プロセスやアイデアの源泉について教えてください。
創作の過程では、常に研究や調査の段階があります。
日本食だけでなく、世界のほかの地域の料理、ほかのシェフの作品、最高のレストランの料理を分析するんです。
インスピレーションは、いつでも私のところにやってきます。アイデアやコンセプトを考え、料理を作り始めます。
そして、従来の常識や確立されたものは何かを考え、常に純粋でシンプルな点から料理を改善する方法を考えます。
──以前、はじめてYugoで食事をしマルモルさんにお会いした際、「
酸味、塩味、脂肪、食物繊維など、すべてが一口で溶けるようにしなければならないと私は考えています。主原料のバランスを取り、自然な形で味を強化するためです。
また、私の料理ではソースという概念を“放棄”しています。
原料の風味を高めるために、たとえば、塩味のポイントとなる海藻や、魚のコラーゲンなどを使用しています。
──フリアンさんにとってクリエイション/料理とはなんですか?
私にとって、料理とは情熱であり、生き方でもあります。
常に新しい料理を作るために、ユニークな素材を探したり、もっとも正確なカットを実現したり、調理プロセスを試したりする情熱です。私はそれぞれの料理に完璧さと卓越性を求め、ユニークな感覚を呼び起こします。
──フリアンさんはアーティストであり、シェフであり、起業家でもありますが、創造と起業には何か共通点があるのでしょうか?
私の場合、一つのことが順番にほかのことにつながっていきました。
料理への情熱とキッチンでの創造性から、自分のビジネスプロジェクトを立ち上げ、「Yugo The Bunker」をはじめ、その後のスペインや海外でのガストロノミープロジェクトへと展開していきました。
シェフとして、自分の創造性や個性を自由に発揮していますが、絶え間ない研究や新しい技術や料理の開発という継続的なサイクルは決して忘れません。
起業家としての私の役割には、ほかのスキルを使わなければなりません。
レストランを経営するには、チームを管理する能力、リスクを排除する能力、財務や数字を扱う能力、人間関係を築く能力など、じつにさまざまな能力が必要です。
つまり、起業は創造の延長線上にありながらも、異なるものであるということです。
【取材後記】
フリアン・マルモル氏との会話から、彼の人生を突き動かす動力は“情熱”だということが伝わってきます。
私たちの多くは新しいことをはじめるまえから、失敗を恐れたり、うまくいかなかったときのことを心配しがち。しかし、彼にとって新しいことへの挑戦は、情熱を具現化するためのもっとも重要な行動といえるようです。
彼の生き方や考え方から私たちも多くのことを学べるのではないでしょうか。
次回の記事では彼が描く未来のビジョンについて迫りたいと思います。