「バンクシーの船」捕縛により、30人もの人々が死去。イタリアの移民問題加速か

今年初頭、イタリアへの移民のルートのうち、トルコやギリシャ、バルカン半島からの陸路が遮断されたことで、地中海経由の移民が急増。特にチュニジアからの出航数は跳ね上がっていて、昨年の10倍近い人数がこのルートを使っているそう。

そして、その多くは粗末な船と未熟な航海技術しか持たないため、道中で命を落とすことも少なくないのが現状だ。

彼らに手を差し伸べるべく、イタリアを中心に地中海で民間の船舶が救助活動を開始。そのうちの一つがこちら。

© louisemichelcrew/Instagram

ビビッドでド派手なスプレーペイントは、英アーティストのバンクシーによるもの。

この「MV Louise Michel」号は、2019年にバンクシーがアート販売の収益を使って購入した船だ。バンクシーがNGOに所属している船長に直接話を持ちかけ、元フランス海軍の船舶を改造して作られたそう。

バンクシーのアイコンである少女がライフジャケットを着込み、ハート型の安全ブイを持っている

作品を背負い、MV Louise Michelは2020年の8月から救助活動を開始。今回の移民救助にも参加し、3月25日には180名もの人々を助け出したのだが──。

© louisemichelcrew/Instagram

同日、なんとイタリア政府によって拿捕された。

正式な書類や通達はなく、乗組員に伝えられたのは「最近制定された法律に違反する」という旨の言いつけだったという。2日後には20日間の運行停止処分を言い渡され、活動ができない状態に。

船と同名のNGOの声明によると、拿捕された理由は“あまりにも多くの移民を救助した”から。乗組員の声明や海外メディアの考察にもあるように、政府の目的は明白で「移民を沈め、イタリアへの到達を妨げる」ということらしい。

新首相ジョルジア・メローニの政策により急速に極右化が進んでいるイタリアでは、地中海で捜索・救助活動を行いNGOの力を弱めようとする幅広い取り組みが行われており、今回の拘束もその一環と見られているのだ。

これが本当であれば、全体主義的なイタリアが蘇りつつあることを意味する。この船の拿捕は、「アーティストの船を“芸術大国”イタリアが否定した」こと以上に大きな意味を持つものになる。

ただし、以前メローニ首相は「移民に安全な旅を偽る密航業者を批判し、出発地となる国に協力を呼びかけて移民対策を継続する」と語り、EUへ移民問題への行動を呼びかける書簡を送る等、全面的な移民の否定はしていないとも見受けられる。

なお、Louise Michel号が拘束中の26日には、最低でも29人の移民が溺死したという。

未だ真相は不明確だが、時代を背負うアーティストの社会貢献は世界を動かすきっかけにもなり得たはず。これを受けて、EUは動くのだろうか。

Top image: © The MV Louise Michel / photo by Ruben Neugebauer
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。