欧州サッカー市場を揺るがすオイルマネー。サウジアラビアが目指す「新国家戦略」

クリロナ、ベンゼマ、カンテ──。 ご存知サッカーのスーパースターたち。
最近、世界的プレイヤーだちが「サウジ・プロフェッショナルリーグ」へ続々と移籍し、サッカーファンをざわつかせている。

サウジアラビアが提示した年俸は、ロナウドが約2億ドル(約286億円)、ベンゼマは3年間で3.3億ドル(約465億円)ほどと、超破格。これは、欧州リーグでの年俸の約5倍にあたる。そして現在、ネイマールにも交渉を持ちかけているというニュースも。

巨大マネーでオファーをかけるサウジ勢。その背景には、サウジアラビア政府による“ある意向”が見え隠れする。

石油依存からの脱却を目指す中東の大国

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世界最大級の石油産出国サウジアラビアは、2019年ごろよりさまざまなスポーツへの投資を行なってきた。

冒頭で触れたサッカー界のビッグネームに限らず、タイガー・ウッズや松山英樹らが活躍する米男子プロゴルフ「PGAツアー」とサウジ政府系ファンドが出資する「LIVゴルフツアー」の合併、さらに近年ではボクシングにおける世界統一戦などもたびたび開催されている。

こうした世界が注目するスポーツへの投資を続けるひとつの理由が、2030年に向けた政府肝いりの経済改革構想「ヴィジョン2030」だ。サウジアラビアはスポーツやエンターテインメントを国の文化と統合・発展させることで、石油依存からの脱却を図り、経済を多様化させ医療や教育、観光などの産業発展につなげる狙いがある。

不都合な事実を覆い隠す
スポーツウォッシング

だが、ビッグマネーを武器になりふり構わずとも思えるスポーツへの投資を、懐疑的に見ているのが欧米諸国だ。

『世界的イメージの再構築を目論むサウジアラビア』と題した「CBS News」によれば、なんでもサウジアラビアには現在、スポーツウォッシングの疑惑がかけられているという。

「スポーツウォッシング」とは、国家や団体、さらには人物がスポーツを活用して自らのイメージを向上させようとする行為だが、人権問題や性差別といった不都合な事実をスポーツで覆い隠す、といった意味合いで用いられることが多い。

サウジアラビアでは、近年、女性やLGBTQコミュニティへの抑圧や活動家への弾圧、さらには公開処刑などといった人権侵害に対して、たびたび世界から避難の声が寄せられてきた。

もちろん、そこにはイスラム教国家特有の宗教的価値観が内在していたり、欧米諸国による批判には、そうした実情や彼らの文化を軽視する側面があることも否めない。

それでも、噴出する問題を覆い隠すため、スポーツを利用し、積極的に誘致活動を進め、国際社会からの注意を逸らしているのではないか? と、世論は疑問を投げかけているわけだ。

歴史を振り返れば、ナチス・ドイツがプロパガンダを目的に開催したベルリン・オリンピックもまた、スポーツウォッシングであったことは皆の知るところ。ナチスは反ユダヤ主義や人種差別主義を表に出さず、平和で寛容な国家であることを強調。ところが、オリンピック開催後、ユダヤ人への迫害を強め、ついにはホロコーストや第二次世界大戦へと舵を切ることになった。

隣国カタールでも問題に

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昨年カタールで開催された「2022 FIFAワールドカップ」においても、スポーツウォッシングが問題となっていたことは記憶に新しい。

“もっとも高額なW杯”と揶揄された前大会は18年のロシア大会と比較してもおよそ20倍、2000億ドル(約28兆円)という莫大な経費を投じてスタジアム建設などにあたった。ところが、現場で担った労働者の多くは、おもに中央アジアの国々からやってきた出稼ぎの人たち。過酷な環境下での重労働により、6500人以上の移民労働者が命を落としたとも報じられ、人権侵害が問題となった。

スポーツのもつ意味

本来、スポーツとは日常生活の一部であり、あらゆる人の人生に活力や感動を与えてくれるもの。

しかし、オリンピックなどの大規模スポーツ大会を利用して都合の悪い事実を“洗い流そうとする”行為が、恒常的に行われていることも私たちは知る必要がある。なぜなら、気づかないうちに誰もが日々、スポーツウォッシングに晒されているかもしれないのだから。

「スポーツに政治を持ち込んではならない──」

こんな言葉を耳にするが、スポーツの中立性や公平性を左右しかねない政治の圧力によって、誰がが不幸になるなんてことは、決してあってはならないはずだ。

カタールで起きた悲劇を繰り返さないためにも。

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