アメリカ・航空業界がいま、「緊急事態」にある
アメリカから耳を疑いたくなるようなニュースが。
約5000人のパイロットが飛行に影響する可能性のある、メンタルヘルス等における健康問題を“隠匿”している可能性があると『The Washington Post』紙が報じていた。
今回の問題は「FAA(連邦航空局)」による調査で明らかになったとのこと。同国で商業パイロットとして勤務する人はおよそ11万人、その約3分の1は、軍で飛行訓練を受けた退役軍人たちだ。今回、健康問題を隠している疑いがある人々がその元々軍にいた人々で、すでに約60人が飛行を停止するよう命じられたとのこと。
ただ、調査対象となったパイロットのうち約600人は、旅客機などを操縦するライセンスを保有しているという。
退役軍人らが健康状態を虚偽申告するワケ
利用者に危険が及ぶ可能性があるにも関わらず、なぜ退役軍人たちは虚偽申告を行うのだろう。主な理由は、国からの退役軍人らに対するケア体制にあるらしい。
アメリカは20年にわたるアフガニスタンやイラクでの戦争の後、貢献した退役軍人へのケアを行うべく、「VA(退役軍人省)」を筆頭にPTSDやうつなどの精神的健康問題を持つ人たちへ向けて、給付金を支給する体制を拡充してきた。
しかし、給付金を得るためだけにこれまで守ってきた“空”をリスクに晒すとは考えにくい。どうやら、元軍人らを突き動かした要因は他にあるようだ。
軍人としての誇り
1つは長年軍人として活動し、同じ部隊のメンバーたちと国家に貢献してきた彼らのプライド。
空軍で特殊作戦にてパイロットを務めたAdam Asleson氏は、うつ病を理由にVAからの給付金を受け取っていたにも関わらず、退役後に勤務していたデルタ航空にその旨を報告しておらず、2018年に起訴されている。
その理由として、彼は「軍のパイロットは任務へ集中するため、部隊のメンバーを失望させないために精神的な健康問題は滅多に開示しない」と『The Washington Post』に述べている。
不完全なチェック体制
2つ目は、FAAのパイロットの健康管理を行うシステムの脆弱性。
この問題に詳しい専門家によると、パイロットは定期的に健康診断を受ける必要があるが検査自体は表面的で、被検者がメンタルヘルスに関する障害などを持っていた場合はパイロットによる自己申告に依存しているという。
米航空業界に潜む“深い闇”
『The Washington Post』が入手した連邦契約記録によると、FAAの航空医学事務所は昨年からパイロットの健康状態に関する認証記録を確認するべく、医学専門家たちと共に調査を行なってきたそう。
しかし、FAAはそれより以前からこの事態を把握していたらしく、過去に同様の調査や監査に関わったことがある専門家らによると、「20年以上にわたって何万人ものパイロットが、飛行に悪影響を及ぼしかねない健康状態で飛行機を操縦している可能性を把握していた」という。
そんな彼らの考えを変える決め手となったのは、2015年に発生した「Germanwings」の飛行機墜落事故。副操縦士であったAndreas Lubitz氏が意図的にフランスアルプスに向かって飛行したことで悲劇は起きた。彼は元々、自殺傾向とうつ病エピソードの治療を受けていたが、その事実を申告していなかった。
この事態を重く受けとめ、FAAは状況改善のために動き始めたのだろう。
「一般人への潜在的なリスク」を無くすため、改善の動き
コロラド州を拠点とする航空法弁護士のJoseph LoRusso氏は、今回の事態に対して、「おそらくパイロットの85%以上が医療フォームで嘘をついている」と述べており、FAAはパイロットが法律に準拠して健康状態を正しく申告してもらうべく、機関の医療認証フォームを刷新する予定だという。
とはいえ、アメリカの旅客航空会社は2009年以降に致命的な事故を起こしていない。その他に商業目的で運行する飛行機も同様だ。ただ、航空に関する専門家は、近年の飛行機によって起きた災害は精神障害を理由に自殺を志願するパイロットが操縦していたことが原因の可能性があると考えている。現在もアメリカで、このような精神状態のパイロットが民間旅客機のハンドルを握っているかもしれないということだ。
手遅れになる前に現行の制度が改善されることを願う。