幸福度1位フィンランドのZ世代が「アンハッピー」に思うこと

6年連続で「世界幸福度ランキング」1位の座につく国、フィンランド。個人の主観で国に採点をつける方法で幸福度が測られるものですが、フィンランド人は自身をめちゃくちゃ幸せと思っているのだろうな。

そう私は単純に考えながら5月、友人に会うべくヘルシンキから北へ270km、湖水地方のユヴァスキュラを訪れました。そこで、現地の大学生2人が語ったリアルボイスをご紹介!

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インタビューに応じてくれたのは、
ラスモス君(19歳)と

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アレクシ君(20歳)

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「フィンランドは幸せな国じゃない」
地元民がそう語るワケとは?

Anne

フィンランドって幸福度ランキング1位だけど、実際にハッピーな国だなって思う?

ラスモス

いや、そうは思わないね。

え、そうなの!?(意外な返答すぎて焦る筆者)。どうして?詳しく聞かせて。

アレクシ

「フィンランドは幸せな人しか存在していない、不幸せな人はいない」っていうダークジョークがある。いい表現に聞こえるかもしれないけど、実はこれ自国の自殺率の高さを物語っているんだよね。

Anne

ちょっと笑えないジョークだね……。その社会背景にはどんな問題があるんだろう?

アレクシ

ちゃんとリサーチをしたことはないんだけど、病んでしまう人が多いと思う。

Anne

そうかぁ。でもね、フィンランドに留学している日本人の友人から、大学のキャンパスにはセラピードッグがいて、well-being週間が設けられているって聞いたことがあるけど。

ラスモス

そうだね。そういう取り組みは国全体で行われているから、制度が整っていることは確か。でも、実はそういったサービスを享受するのは難しいことも事実なんだ。

セラピーを受けられなかったり、あるいは機会に恵まれてもいいセラピストに出会えるとは限らないからね。

フィンランドZ世代が抱える
「政府への不満」

Anne

政府がそういう取り組みをしていることは、日本人の私の感覚からするとすごくいいことだなって思ったんだけど?

ラスモス

実は最近選挙があって、フィンランド政府を信頼していいかどうかわからなくなりそうなんだよね。

Anne

さっき2人の大学を散策してた時、何やらキャンパスでプロテストが行われているのを目撃したけど、あれも何か関係があったりするの?

アレクシ

国が教育支援として、学生1人に対して月500ユーロを給付していたんだけど、それを300ユーロに下げられちゃって。だから、キャンパス内にテントを貼ってストライキしているんだ。

ラスモス

そうだ、ストライキ関連でいうと、つい最近、フィンランドでは労働者のストライキ権に制限を設ける法案が可決されたばっかりだよ。

Anne

ストライキが起こせなくなるってこと?

ラスモス

いや、できるんだけど、罰則が与えられることになる。ひどい話だよね。だけど若い世代の多くが右派政党を支持しているんだ。というのも、最近の選挙で右派のパーティーがTikTokをジャックした。その結果、保守派が選挙に勝ったってわけ。

Anne

日本でも保守派を支持する若者が増えてるよ。

アレクシ

世界中で二極化が起こっているってわけか。

ラスモス

そう言えなくはないかもね。

ハッピーな国だからこその悩み

Anne

日本からフィンランドを訪れてみて、日本よりも安全だなって感じてるんだよね。数日前、フィンランドのクラブに遊びに行ったとき携帯を無くしちゃって。クラブ中探してもなかったから諦めようとしてたら、バーテンダーの方が他のお客さんが拾ってくれたって、私の携帯が戻ってきたの。「フィンランド最高〜!」って思わず叫んじゃった(笑)

それと、すごく小さい子どもでも、ひとりで外を歩いているのを何度か目にしたの。それって、安全な場所ならではの光景だなって思う。

ラスモス

そうだね、僕らは小さい頃から1人で行動してたな。だからこそ、フィンランド人は自立していて孤独だって言われているのかもしれない。

Anne

もしかして自立していることが、アンハッピーに繋がったりしてる?

ラスモス

ん〜、たしかに僕らは人に助けを求めたりしないかも。自立してるってのもあるけど、相手から助けを差し伸べてくれるのを待っている気もする。

Anne

話は戻るけど、「幸せな国」だと思わない。その理由は他にも?

ラスモス

やっぱり将来への不安があることかな。

アレクシ

というと?

ラスモス

今の状況がとっても安定しているからこそ、他の国で起こっている戦争だったり、気候変動を鑑みると、この先どうなってしまうんだろうってすごく不安になる。

Anne

今が安定しているからこそ、不安定な未来がこわいってこと?

ラスモス

うん。

フィンランドならでは!
サウナと自然に癒される

Anne

2人が話してくれた不満だったり不安って、私からするとかなり意外なものだった。アンハッピーだとしても、それは長〜い冬を乗り越えるのが大変だとかってことを想像していたから。

アレクシ

実際、暗くて長い冬は大変なこともある。でも、乗り越えた先の春の日差しが余計に特別に感じるんだよね。

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ラスモス

そうだね。フィンランドには「kaamosmasennus」、直訳すると“冬の鬱”っていう医学的にも認められている症状が存在するくらい大変。特に冬は病まないために、人との関わりを持つことをより意識しているよ。やっぱり、どんな季節でもだけど、ソーシャライズすることは幸せの必須条件だと思うから。

アレクシ

幸福を感じるとき、やっぱりサウナが気持ちいよね。

ラスモス

同じことを考えていた(笑)。サウナは交流の場でもあるし、リラックスもできる場所だよね。あとは、自然の中を散歩して、自然の声に耳を傾けるのもすごく気持ちが落ち着く。豊かな自然へアクセスできるのは、フィンランドの良さだなって思う。

Anne

サウナ文化が根付いているフィンランドらしい幸せだね。でも寒い冬は、家の中に閉じこもっちゃわないの?

ラスモス

僕は季節に関係なく1日に1回は絶対に散歩に行くよ。あ、寒すぎる時は例外だけどね(笑)

現地の学生視点で見る
フィンランドのリアル

Anne

2人ともお話を聞かせてくれて本当にありがとう!これまでフィンランドに関するいい情報ばかりを収集していたからこそ、今回リアルな生活感を教えてもらえて、新たな一面を知ることができた。Kiitos!(フィンランド語でありがとう)

ラスモス

Kiitos!

アレクシ

Kiitos!

ダークすぎるダークジョークがあったり、教育の支援金が減額されたことや、労働者のストライキ権に制限がかかるという問題に直面していた事実を知ったりと、普段日本で生活していると知らなかったであろうことを知ることができました。今回のインタビューを終えて、どれだけ幸福度が高いとされる国でも、それぞれに抱えている悩みや不安はあるものです。

幸福度だけで必ずしもその国のリアルを測ることはできません。それでも、人々が何を拠りどころとし、何を大切に考えているかが垣間見えた気がします。幸福度ランキング1位であり続けるフィンランドのZ世代たち、彼らの“シアワセ”をかたちづくるもの。いつかまた、二人にそれを尋ねてみたいと思いました。

Top image: © 2024 NEW STANDARD
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