「もっと細いモデルを」痩せ型信仰へ急速にかえるファッション業界
多様性、包括性は幻だったのか──。
数年前から「プラスサイズ」を積極的に取り入れていたファッション業界が、いまサイズダウンへと舵を切り直している。
プラスサイズの服が消え
プラスサイズのモデルが消えた
「The Vogue Business」の『2024年秋冬 サイズ・インクルーシビティ・レポート』によると、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ミラノのファションウィークで発表された8800のルックのうち、プラスサイズ(US14+)は0.8%、ミッドサイズ(US6-12)は3.7%と、これまでのシーズンに比べて顕著な減少がみられたそうだ。
データをもとに、ファッショントレンドの分析を行う「Style Analytics」も、過去1年間でストレートサイズの衣料品の売上が増加していることを指摘。この傾向は検索データにも表れているようで、米国では、若者に人気のある小売店で、00サイズのジーンズの検索が、過去1年間で8%増加したと報告している。
「プラスサイズは要らない」
モデルに対するバックラッシュ
業界全体のサイズダウンとともに起きているのが、プラスサイズモデルに対するバックラッシュ。昨年の「British Fashion Awards」でプラスサイズモデルとして、はじめて「Model of the Year」を受賞したPaloma Elesserをご存知だろうか。
キャリアのハイライトとなる偉業を成し遂げたPaloma。だが、彼女を待ち受けていたのは、盛大な祝福ではなく、辛辣なファット・シェイミングだった。
「多様性ピック」ってやつだ
本物のモデルは体型維持のために努力しているのに、あなたは座ってチーズバーガーを食べているだけ
Model of the Yearが発表されるやいなや、PalomaのTikTokやInstagramには、体型を批判する罵詈雑言が殺到。2ヵ月もの間SNSを開けなくなるほど精神的に追い詰められた、と「Dazed & Confused Magazine」に吐露するPalomaだった。
「多様性」が消えた原因
ボディポジティブ・ムーブメントにより、ファッション業界も多様な体型に合わせて変化してきたはず。なのに、なぜいま掌返しのような現象が起きているのだろう。
業界関係者の多くが捉える原因の一つが、ダイエット薬「Ozempic(オゼンピック)」の流行だ。2年前からセレブやインフルエンサーが服用、その効果を力説し始めたことから、人気が上昇。2024年上半期、同薬の売上は全米で50%増、世界全体では3分の1以上増加したと製造元は報告している。薬により体重減少が容易に叶うようになると、小さいサイズの需要が増加、同時に“ヘロインシック”に代表される痩せ型信仰が再燃した、ということらしい。
あらわとなった空虚さ
社会の“土壌”に根付かなかったもの
思えば、今年は「Victoria’s Secret Fashion Show」のカムバックイヤーでもある。
世界最高のショーと謳われたいっぽうで、多様性の欠如や経営陣のルッキズム発言などで批判も集めたランウェイの再開について、「今年はインクルーシブなものを目指す」とブランドは話しているが、公式Instagramに投稿されたトレイラーには、こんなコメントが。
プラスサイズモデルは使わないで
昔のモデルたちに戻して――つまり「細い」モデルたちってこと!
結局のところ、「多様性」、「包括性」といった言葉は、私たちが思っていたほど社会の土壌に根を張ることはできなかった、ということなのだろうか。いや、そもそも存在すらしていなかったのかもしれない。
少なくとも、ダイエット薬の登場で一掃されてしまうほど、空虚なものだったことは間違いない。「Victoria's Secret Fashion Show 2024」 には、先のPalomaの出演も決まっている様子。いったい私たちは、どんなランウェイを目撃することになるのだろう。