推しのPR案件を喜ぶ? Z世代が「VTuber」に夢中になる理由

SNSやゲームの世界で自由に自己表現をするソーシャルネイティブなZ世代。そんな彼らがいま夢中になっているもののひとつが、リアルとバーチャルが交錯する「VTuber」の世界ではないでしょうか。

個性的な魅力やキャラクター性を持つ「VTuber」に、ここまでZ世代が引き寄せられる理由とはいったい何なのか。

今回は、その理由を探っていきたいと思います。

Z世代の心を掴む
VTuberならではの3つの要素

Z世代にVTuberが人気な理由のひとつとして、彼らならではの「ユニークな体験価値」が挙げられます。

2Dや3Dのアバターを使っているにもかかわらず、その表現力やキャラクターは非常に人間らしく、視覚的にも感情的にもファンを引き込んでいきます。

YouTube配信では、コメント機能を活用してVTuberとファンがリアルタイムで双方向のコミュニケーションを楽しむことができるため、まるで同じ空間で時間を共有しているような感覚を味わえることも特徴的です。これらの体験を通じて、VTuberはただの視聴対象ではなく、「身近な存在」にも感じられるのでしょう。

また、VTuberの多くがプライベートな生活やバックグラウンドを公開していません。その神秘性がより一層ファンの好奇心や想像力をかき立て、「もっと知りたい」という欲求を抱かせ、推しの活動やストーリーにますます魅了されていく側面もあるでしょう。

このように、VTuberは視覚的な魅力相互コミュニケーションを通じたファンとの繋がり、そしてもっと知りたくなる謎めいた魅力、の3つが大きな要素となりZ世代の心を掴んでいると考えられます。

いわゆる
「インフルエンサー」との違いは?

VTuberとインフルエンサーの違いを挙げるとすれば、ビジュアルが崩れない「非現実性」と、VTuber自身の感情や個性が感じられる現実的な「人間らしさ」という、一見相反する要素を両方とも持ち合わせている点でしょう。

例えば、多くのインフルエンサーはリアルな自分をSNSで公開し、私生活をファンに見せることで親近感を生み出しますが、VTuberは私生活が一切見えないため、ファンの「もっと知りたい」欲求を強く引き起こします。

それらは、配信の視聴時間にも影響しています。VTuberのなかには最大7時間ほどの長時間雑談を配信する方もいますが、そのすべてを聞き流すファンもいるのです。

また、配信中のコメント機能を通じたリアルタイムの相互コミュニケーションも盛んです。さらにコメントだけでなく、X上でファン同士の活発なやり取りが行われるのも特徴的です。それら相互作用にによって生まれるXでの話題化や、VTuberとファン、はたまたファン同士の距離の近さが、VTuber業界全体の熱量を高めているのだと考えられます。

ファンがPR案件を喜ぶ
「応援」の関係性

SNSマーケティングの観点でいえば、PR案件に対するファンの反応も注目すべき点です。通常、インフルエンサーが企業から受けたPR案件で商品やサービスを紹介するとなると、広告に敏感なZ世代は、どこか商業的な匂いを感じ取って違和感を抱くことも珍しくありません。

一方、VTuberのPR案件への反応は対照的なケースがよく見受けられます。

その背景として、近年急速に増えつつありますが、VTuberに関してはまだまだPR案件を行う事例が少なく、ファンとしては、推しのVTuberが企業から認知されたことへの喜びも含め、応援の一環としてポジティブな反応を示すことが多いのです。

実際、VTuberが関わるPR案件は、他のインフルエンサーよりも高い購買率を記録するケースが多々あるのです。

<ミツカン 味ぽん×にじさんじ>

たとえば、VTuberの「SMC組(すめし組)」と、ソフィア・ヴァレンタインを起用したミツカン「味ぽん」のプロモーション企画では、味ぽんの原材料である酢にちなんだ「SMC組(すめし組)」の起用や、「めんつゆ派であるソフィアを味ぽん派にする」というVTuberの背景を活かしたストーリーで、ファンに親しみやすい形で商品が紹介されました。

結果として、配信開始2時間以内に限定セットは完売し、Xでは20,000件以上の発話も生まれました。ファンは推しのVTuberと一緒に商品を試すことに喜びを感じ、積極的に反応したのだと考えられます。

参照:株式会社FinTが、ミツカングループ『味ぽん』×にじさんじによるVTuberマーケティング支援事例を公開。発話数は20,600件を創出し、限定セットはわずか2時間で完売!

<埼玉県×春日部つくし>

また、埼玉バーチャル観光大使を務めるVTuber・春日部つくしを起用した観光キャンペーンもPR案件の成功事例として挙げられます。

この企画では、春日部つくしがガイドを務めるバスツアーの参加者を募集したところ、販売開始からわずか1時間半でチケットが完売。さらに生配信の際には、関連物販サイトへのアクセスが2倍に増加したという結果も。

ファンは、VTuberならではの視点やキャラクター性が活かされた企画を楽しみながら、商品やサービスに対して強い共感を持ち、購買意欲を高めたといえます。

参照:「みなぎりますわ」 春日部つくしさん、埼玉バーチャル観光大使の続投発表 県内巡るバスツアーも

ファンと共創していく
「未完成」ゆえの魅力

このように振り返ると、VTuberが「未完成であること」が、圧倒的な親近感や一緒に日々を過ごしている感覚に繋がり、Z世代の心を掴んでいることが見えてきます。

インフルエンサーがすでに確立されたキャラクターを持っているとすれば、多くのVTuberはまだそのキャラクターが定まっていないこともあり、だからこそファンを含めたコミュニケーションも活発で、その中でキャラクターやストーリーなどの深みが共創されていくのでしょう。そこではファンが抱くイメージや感情もVTuber本人に反映され、双方の働きかけによってキャラクター像が徐々に形作られていきます。

特にこの傾向が顕著に表れているものに、ファンアートが挙げられます。ファンアートはVTuberのファンたちが二次創作的に作るイラストが代表的ですが、その特徴として、自分自身が想像するVTuberを反映するだけでなく、他のファンたちが考察するキャラクターの個性や世界観を深めたうえでアートに反映しているのです。またこうしたファンアートが実際にVTuber本人のサムネイルに使われることもあり、これはVTuber自身がそのイメージを受け止めているとも読み取れるのです。

こうしたファンとの「共創」がVTuberならではの魅力を生み出し、ファンと一緒に成長する楽しさを提供しているのではないでしょうか。


 

\寄稿いただきました/

この記事は、SNSマーケティングを手がける「株式会社FinT」に寄稿いただいたものをもとに編集しております。

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