いま、社会に広がる「静かな退職」という選択肢
近年、「静かな退職(クワイエット・クイッティング)」という現象が注目を集めているのをご存知でしょうか? 仕事への意欲を失い、最低限の業務だけをこなすこの状態、個人のキャリアや職場環境に影響を及ぼす可能性があるとされています。
この記事では、静かな退職の背景や影響、対策について詳しく解説します。
静かな退職(クワイエット・クイッティング)
意味と背景
「静かな退職(クワイエット・クイッティング)」とは、実際に会社を辞めるわけではなく、業務に対する意欲や熱意を失い、最低限の業務のみをこなす状態を指します。
この現象は、職場でのストレスや評価制度への不満、働き方改革の影響など、さまざまな要因から生まれるものと考えられています。まず、この章では、静かな退職の具体的な意味とその背後にある社会的・心理的な要因について解説します。
静かな退職とは?
「やる気のない状態」に陥るメカニズム
静かな退職は、業務をこなしているように見えて、実際には内面で仕事への意欲を失っている状態を指します。
たとえば、同僚が新しいプロジェクトに積極的に参加しているなかで、自分はただ指示された業務を淡々とこなすだけ。会議でも発言はなく、チャレンジ精神を見せることもない。このような状態というのは、本人も「なぜ自分はやる気が出ないのか」と悩んでいる場合があります。背景には、「どうせ評価されない」「期待に応えるだけ無駄だ」という思い込みが潜んでいることが多いようです。
注目されるようになった背景と社会的要因
静かな退職が注目される理由には、次のような社会的背景が考えられます。
働き方改革とリモートワークの普及
柔軟な働き方が推奨されるいっぽうで、個人のモチベーション管理が難しくなった。自宅での仕事が増えることで同僚や上司との交流が減り、仕事へのコミットメントが薄れがち。職場のストレスや人間関係の問題
過度なプレッシャーやパワーハラスメントが原因で、心のエネルギーを消耗するケースが増えた。評価が数字だけで行われる環境では、社員が「頑張っても報われない」と感じてしまうことも。「仕事以外も大切にしたい」という新しい価値観の広がり
Z世代やミレニアル世代を中心に、「仕事だけが人生ではない」という考え方が定着。仕事での成功よりも、家族や趣味、自分の時間を大切にすることを重視する人が増え、仕事に対するモチベーションの変化が生じた。

静かな退職を選ぶことで得られる
3つのメリット
一見ネガティブな行動のように捉えられがちですが、静かな退職は、自分の心と体を守るための戦略として有効な側面もあります。この章では、静かな退職を選択することで得られる3つのメリットについて解説していきましょう。
ワークライフバランスを整え、心身の健康を守る
静かな退職を選ぶことにより、仕事に追われる生活といった側面からは解放されるでしょう。たとえば、それまで残業や休日出勤が当たり前だった人が、定時退社を心がけるようになれば、必然的に家族との時間や自分の趣味に充てる時間が増えます。日々の生活に余裕が生まれることで、ストレスが軽減し、精神的にも安定しやすくなるでしょう。
燃え尽き症候群(バーンアウト)を予防できる
燃え尽き症候群(バーンアウト)は、過剰なプレッシャーや長時間労働が続くことで、精神的に疲弊してしまう状態。静かな退職の実践によって、業務量を自分でコントロールし、限界を超えないようにすることで、精神的な余裕を保つことが期待できます。「今日はここまでやったら十分」と自分に許可を与えることで、心の健康を維持することができるでしょう。
仕事以外の自己実現や充実感を得られる
仕事にすべてのエネルギーを費やさないことで、自己成長の機会が広がるといった利点も。仕事以外の時間を使って新しいスキルを学んだり、ボランティア活動に参加したりすることが可能になります。また、趣味や好きなことに没頭することで、仕事とは違った充実感を味わえるでしょう。静かな退職を通して得た時間やエネルギーを、ポジティブに活用することが大切です。
静かな退職のデメリットと注意点
静かな退職は、自分を守るための手段として有効な面もありますが、同時にキャリアや職場環境にマイナスの影響を及ぼすリスクも伴います。ここでは、静かな退職がもたらすデメリットや、実際に注意すべきポイントについて解説します。
キャリア成長や昇進のチャンスを逃す可能性
静かな退職を続けることで、企業内での評価が停滞し、キャリア成長の機会を逃す可能性があります。企業は、積極的に取り組む社員を評価する傾向が強いため、“受け身の姿勢”では重要なプロジェクトや昇進の機会が回ってこない可能性も。
たとえば、同僚が新しいプロジェクトに挑戦し評価を得て昇進するのに、自分は「特に目立つ成果がない」として評価が横ばいになるなど。このような状態が続くと、長期的なキャリアプランに悪影響を及ぼし、転職活動においても「実績不足」と見なされることが考えられます。
チームワークや人間関係に悪影響を及ぼすリスク
静かな退職を選んだ場合、周囲の同僚や上司に「やる気がない」と受け取られる可能性があります。とくに、職場では「協力」や「貢献」が重視されるため、最低限の業務しかしない態度は、チーム全体の士気を下げる要因にもなりかねません。
プロジェクトでタスクを分担する際、他のメンバーが負担を感じるような状況が生まれると、関係性にひびが入ることがありますよね。「あの人に頼んでも期待できない」と思われてしまうと、自然と孤立するリスクも高まります。これにより、職場での居心地の悪さを感じ、さらなるモチベーション低下を招く可能性があることも認識しておく必要があるでしょう。
将来的な転職や就職活動で不利になる可能性
とかく転職市場では、実績や成果が重視されるもの。静かな退職をしている期間に目立った実績が残せなかった場合、履歴書や職務経歴書に記載する内容が不足し、面接でもアピール材料に困ることが考えられます。
面接で「前職ではどのような貢献をしましたか?」と尋ねられた際、静かな退職中に特筆すべき成果がなければ、「単に仕事をこなしていただけ」と受け取られる可能性も。また、採用担当者に「なぜその状況を改善しようとしなかったのか?」と厳しく問われる場合もあり、面接での印象を損ねるリスクがあるやもしれません。

静かな退職に関する兆候とその解決策
静かな退職について、実際にどのような状況で発生するのか、また自分や職場でその兆候を見つけた場合の対処法とは?ここからは、静かな退職に関する質問と実践的な解決策を考えてみたいと思います。
静かな退職、その兆候
上司や同僚が気づくポイント
静かな退職の兆候は、表面的には業務をこなしているように見えるため、見過ごされやすいとされています。しかし、以下のような行動や態度が見られる場合、静かな退職のサインかもしれません。
- 発言の減少:会議中に意見を述べない、受け身の姿勢が目立つ。
- 最低限の業務しかしない:指示されたタスクをこなすだけで、自主的な行動が見られない。
- コミュニケーションの希薄化:同僚や上司との会話を極力避け、メールやチャットでも簡素な返信しか行わない。
- 業務外活動への不参加:社内イベントや勉強会、交流会に消極的。
たとえば、普段は積極的に意見を述べていた社員が、急に発言を控えるようになった場合、職場環境や仕事へのモチベーションに変化が生じている可能性があります。とくに、プロジェクトの重要な場面でも関心を示さない、業務上の提案や改善のアイデアを出さなくなるといった変化が見られる場合は注意が必要です。
静かな退職をしてしまった場合、キャリアへの影響は?
静かな退職の状態が長期化すると、キャリアに悪影響を及ぼす可能性があると考えられています。成果主義の企業や実績が重視される業界では、「やる気がない」「成長意欲が低い」と判断されてしまうことも。たとえば、次のような状況が考えられます。
- 昇進や昇給のチャンスを逃す:積極的な成果を出していないため、評価の対象外となる。
- 重要なプロジェクトから外される:「リーダーシップを発揮できない」と見なされ、責任ある役割が与えられなくなる。
- 転職活動で不利になる:面接時に「なぜ実績が少ないのか」と問われた際、納得のいく説明ができないと、採用の可能性が低くなる。
ことさら転職活動においては、「前職でどのような貢献をしたのか?」といった質問がよく出されます。静かな退職の状態で過ごしていた期間が長いと、「特筆すべき成果がない」として評価が難しくなるリスクがあります。そのため、万が一静かな退職状態にあると感じたら、早めに対策を講じることが大切です。
「静かな退職状態かも……」
そう感じたらどうすればいい?
もし、自分が静かな退職状態に陥っているかもしれないと感じたら、以下のステップを試してみてください。
自己分析を行う
「なぜやる気が出ないのか」を考えることから始める。仕事の内容、人間関係、評価への不満、生活リズムの乱れなど、原因を具体的に洗い出す。小さな目標を設定する
「今週は一度だけ会議で意見を出してみる」「毎日一つ新しいことを学ぶ」といった、実現可能な目標を設定してみる。達成感を積み重ねることで、徐々に仕事への意欲を取り戻せることも。信頼できる人に相談する
上司や同僚、もしくはキャリアカウンセラーに悩みを話してみることを検討。第三者の視点からアドバイスをもらうことで、新しい解決策が見えてくることも。働き方を見直す
リモートワークを取り入れたり、勤務時間を調整したりすることで、心の余裕を取り戻せる可能性も。また、転職や社内異動を検討するのも一つの手。プライベートの充実を図る
仕事以外に夢中になれる趣味や活動を見つけ、仕事に対するプレッシャーを和らげる。
まとめ
「静かな退職(クワイエット・クイッティング)」は、現代の働き方や価値観の変化を象徴する現象とも言えます。仕事に対するモチベーションを失い、ただ日々の業務をこなすだけの状態は、誰にでも訪れる可能性があることは理解しておかねばなりません。
けれど、静かな退職は必ずしも悪いことではなく、自分を守るための「一時的な休息」として捉えることもできます。大切なのは、その状態を長引かせないこと。職場環境の改善や自分自身の気持ちを見つめ直すことで、再び前向きな働き方を見つけることができるかもしれません。また、企業側も社員が静かな退職に至らないよう、適切なサポートや評価制度の見直しを行うことが重要です。
自分の価値観やペースに合った働き方を見つけ、心地よい職場環境で前向きに仕事に取り組むための一歩を踏み出してみましょう。