2050年の食卓はどう変わる?専門家が予測する未来の食材と食習慣

私たちの食生活は、これから約30年後の2050年にどのような姿になっているのだろうか。

グローバルなミールキット企業Hello Freshがオックスフォード大学と共同で行った食生活の未来予測に関する研究は、英国の食生活を中心に据えつつも、世界中から注目を集めた。

『The Food Institute』に掲載された専門家の意見を交えながら、気候変動、健康志向、倫理観といった複数の要因が絡み合い変容を遂げるであろう未来の食卓を想像してみよう。

地球環境と共存する食。
持続可能性への挑戦が促すイノベーション

未来の食生活を考える上で避けて通れないのが、地球温暖化の影響である。

NutriFusion社のCEOであるWilliam Grand氏は、「洪水や干ばつの頻発は、世界規模での食糧不足や入手困難な状況を引き起こす非常に現実的な可能性があり、食品インフレも継続的な問題となるだろう」と警鐘を鳴らす。このような背景から、食のあり方そのものを見直す動きが加速すると予測される。

注目されるトレンドの一つが、都市部での食料生産を増やす「都市農業」の拡大。また、AI技術を活用した食品ロスの削減努力も進むだろう。さらに、食品自体が温室効果ガスを排出するのではなく、むしろ吸収するような革新的な技術開発も期待される。

加工食品の役割も見直されるかもしれない。

超加工食品(UPFs: Ultra-Processed Foods、多くの添加物を含む工業的に生産された食品)は、これまで健康面での懸念が指摘されることもあった。しかし、MISTA社のCOOであるJim Taschetta氏は、「増加する世界人口を持続可能な形で養うためには、UPFsも役割を果たし続けるだろう。

ただし、その製造方法を進化させる必要があり、それには抜本的な協力体制が不可欠だ」と述べる。栄養価を高め、環境負荷を低減した形での加工食品の進化が求められるようになるはずだ。

また、気候変動により栽培される作物にも変化をもたらされそうだ。

乾燥や熱に強い、いわゆる古代穀物や新品種の作物がより広く栽培されるようになることが見込まれる。Rubix Foods社のマーケティング担当副社長であるShannon O’Shields氏は、「2050年までには、持続可能性は当然の前提となり、消費者は食品が倫理的に調達され、環境に責任ある形で作られていることを要求するようになる」と予測する。

健康志向は今後も深化
未来の食卓を彩る新たな主役たちは?

倫理観や環境意識と並んで、個人の健康とウェルビーイングへの関心は、未来の食生活を形作る大きな推進力となる。

Shannon O’Shields氏は、「2050年までには、見た目を良くするための食事から、気分を良くするための食事へと根本的なシフトが見られるだろう。一般的な幸福感が、消費者の食に関する意思決定の最も重要な推進力になる」と語る。

この健康志向の高まりの中で、今後25年で消費が増えると専門家が予測する食材には、興味深いものが並ぶ。

ソルガム(イネ科の穀物で乾燥に強い)やソバ、テフ(エチオピア原産の栄養価が高い穀物)といった古代穀物は、その栄養価や栽培のしやすさから注目が集まる。

日本でも馴染み深い海藻類は、ミネラルが豊富で持続可能な食材として世界的に評価が高まるだろう。また、キムチのような発酵食品は腸内環境を整える効果から、ますます重要視される。植物性タンパク源として豆腐などの大豆製品も引き続き重要な役割を担う。

その他にも、ベリー類、ほうれん草、ブロッコリーといった栄養価の高い野菜や果物に加え、サボテンやタンポポといった、日本ではまだ食材として一般的ではない植物も食卓に上る可能性があるという。

特に腸内環境への意識は、今後ますます深まると考えられる。

プロバイオティクスやプレバイオティクス製品市場は近年飽和しつつあるが、mBIOTA Labs社のCEOであるNicola Wodlinger氏は、「腸内環境は医学的にも新しい分野であり、個人のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)は指紋のようにユニークであることが分かってきている。消費者は『何が腸に良いか』という問いから、『何が“自分の”腸に良いか』という問いへと移行するだろう」と指摘。

同社は胃腸の状態(GI conditions: Gastrointestinal conditions)の管理に役立つ食品開発を進めており、個別化されたアプローチが主流になることを示唆している。

変わりゆく食肉消費への意識

食肉の消費動向にも大きな変化が予測される。

The Food Instituteが取材した業界関係者の間では、2050年までに食肉生産者の売上高は減少するという点でコンセンサスが得られている。特に牛肉などの消費は今後25年間で減少すると専門家は広く見ており、鶏肉の消費は比較的堅調に推移するかもしれないという意見も少数ながら存在する。

Shannon O’Shields氏が指摘するように、「食肉カテゴリーにはあまりにも多くの逆風が吹いている。同時に、食肉生産に伴う倫理的・環境的課題、特に持続可能性や動物福祉に関連する問題は、もはや無視できないものになっている」のが現状だ。

健康とウェルビーイングは、今後数十年にわたり、私たちの食生活に深く根付いていくと専門家は見ている。

バージニア州リッチモンドでHolistic Health and Wellnessを主宰する管理栄養士のKaytee Hadley氏は、「長寿はもはや流行語ではない。それは人々が受け入れ、ライフスタイル全体を形作るムーブメントであり信念体系となっている」と述べており、食を通じた健康寿命の延伸が大きなテーマであり続けることを示唆している。

これらの予測が示すように、未来の食卓は、地球環境への配慮と個人の健康志向が高度に融合した、より持続可能でパーソナルなものへと進化していく。

個人と企業双方にとって、こうした新しい価値観における食の選択が、より重要なものとなっていくだろう。

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