孤独を語る女性たちFemcel(フェムセル)とは何者か

インセル(Incel)とは、「involuntary celibate(非自発的独身者)」を短縮した言葉。これまで、この言葉は主に恋愛や性的な関係を築けない男性たちを指すものとして、時に過激な思想と結びつけて語られてきた。

しかし今、SNS上では、同じく非自発的な独身状態にある女性、「Femcel(フェムセル)」たちの声が、静かに、しかし確実に広がりを見せている。

癒やしを求める孤独な女性たちのコミュニティ

「どうしてみんな、簡単に恋人ができるの?」。

TikTokに投稿された、ある女性の嘆き。この動画は大きな反響を呼び、コメント欄には「私だけじゃなかった」という安堵の声が溢れた。

パートナーができない悩み、デートをしても関係が続かない苦しみ、そして慢性的な孤独感。Femcelたちは、こうした経験をSNSで率直に語り合い、共感やアドバイスを求め、コミュニティを形成している。

Z世代が恋愛関係を経験する割合は、過去の世代より低いという調査結果もある。社会全体に広がる孤独という病。その中で彼女たちは、自分たちの経験を共有することで、孤立感を和らげようとしているのかもしれない。

@millygoldsmith

dating and relationships is all luck and I’m just unlucky perhaps x x x x maybe x x x

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「独身は素晴らしい」という風潮への違和感

近年のフェミニズムの文脈では、独身であることが「自立した強い女性」の象徴として、ポジティブに語られることが多い。

しかし、多くのFemcelたちは、その風潮に強い違和感を抱いている。彼女たちはパートナーシップを切実に望んでいるのに、世間は「一人の時間を楽しむべき」「プラトニックな愛で十分」と語りかける。

その結果、パートナーがいないことへの不満を口にすることさえ、はばかられるような空気が生まれているのだ。

この現象は、一部の男性インセルが主張する「女性は基準を下げさえすれば、いつでもセックスできる」という議論とは全く異なる。

誰もが自分なりの「基準」を持つのは当然のこと。問題は、多くの女性が、満たされる恋愛や性的な関係を築けないと感じているという現実そのもの。

内面化される怒りと、その起源

専門家は、インセルとFemcelの反応の違いを指摘する。

男性インセルが自身の不満や怒りを、女性や社会といった「外」に向ける傾向があるのに対し、女性たちはその怒りを「自分に魅力がないから」と内面化し、自己を責める傾向が強いという。

これは、女性が男性の体を求める「権利」を持つとは社会的に見なされてこなかったことや、より広く自己を責めるよう社会化されてきたことが背景にあるのかもしれない。

皮肉なことに、「インセル」という言葉を生み出したのは、1997年に孤独な人々のための支援フォーラムを立ち上げた、Alanaという一人のカナダ人女性だった。彼女が始めたささやかな試みは、時を経て一部が有害なコミュニティへと変質してしまった。

しかし今、SNS上で声を上げるFemcelたちは、期せずしてAlanaが最初に目指した「孤独を分かち合う」という本来の目的を、現代的な形で継承しているともいえる。

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