アメリカが“土壌”を国家戦略に。USDA「再生農業パイロット」のインパクト

スーパーで手に取る野菜やパンの「栄養」、じつは“土”の状態に左右される——。そんな発想を、アメリカ政府が本気で政策に落とし込み始めました。米国農務省(USDA)が7億ドルを投じて始める「再生農業パイロットプログラム」は、土壌を整える農法を広げることで、食の質から国民の健康まで変えようとする試み。

本記事は、米メディア「Natural News」の報道をもとに、このプログラムが何を狙い、何が変わり得るのかを読み解きます。背景にあるのは、トランプ政権の公衆衛生アジェンダ「Make America Healthy Again(MAHA)」。医療やサプリではなく、食の“出発点”=土壌からアプローチするという、いままでの常識をひっくり返す話です。

土壌の健康への投資:新たな食料安全保障戦略

土壌保全の歴史的背景

土壌の健康に対する連邦政府の関心は、1930年代のダストボウルの惨禍に端を発しています。この時期の干ばつと不適切な農業実践による深刻な砂嵐は、アメリカ農業に壊滅的な打撃を与え、国家的な土壌保全運動を巻き起こしました。

その結果、農家が土地を保護するための土壌保全局(現在の自然資源保全局の前身)が設立。現代農業は生産性を大きく向上させましたが、数百万エーカーに及ぶ土壌侵食の問題は依然として残っており、過去の教訓を現代の課題に適用する必要性が高まっています。

MAHAアジェンダと土壌の健康

このプログラムの最も際立った特徴は、国民の健康戦略との明確な統合です。農務長官代理は、土壌の健康を「アメリカを再び健康にする」ための基盤であると位置づけています。

再生農業の実践は、土壌の有機物と微生物の生命を育み、より栄養価の高い作物を生み出すとされています。この政策は、食料の栄養価を源から改善することで、慢性疾患の罹患率に対処することを目指しており、農地補助金や保全支払いを予防医療への投資と見なしているようです。

医療保険・メディケア・メディケイド・サービスセンターの管理者も、このアジェンダの主要な柱として「健全で、栄養価が高く、手頃な価格の食品」へのアクセスを挙げています。

パイロットプログラムの仕組み

管理面では、このパイロットプログラムは、既存の保全プログラムである環境質改善インセンティブプログラム(EQIP)と保全スチュワードシッププログラム(CSP)への申請プロセスを一本化し、「肥大化した官僚主義」と「お役所仕事」を打破することを目指しています。

2026会計年度には、EQIPから4億ドル、CSPから3億ドルが、この新しい再生農業の枠組みを通じて配分。プログラムの主な構造的要素には、「農場全体の計画」に焦点を当て、複数の実践を組み合わせられるようにすること、農家メンバーが交代で参加する「主席再生農業諮問委員会」の設置、そして公的・民間部門のパートナーシップを可能にする新しい権限の付与が含まれているようです。

考察:土壌の健康がもたらす食と医療の未来

農村経済と公衆衛生の統合

このUSDAの7億ドル規模のプログラムは、単なる予算の新たな項目ではなく、システム全体の変革を試みる実験と言えるでしょう。

農業補助金と公衆衛生目標を直接結びつけることで、食料生産と栄養の間の長年の壁に挑戦しています。このアプローチは、農村経済の活性化と国民の健康増進という、これまで別々に扱われがちだった二つの重要な課題を統合する可能性を秘めています。

持続可能性と食料主権への道

土壌の健康を回復することは、長期的な食料生産の持続可能性を高めるだけでなく、食料主権の観点からも重要。化学肥料や農薬への依存を減らし、土壌本来の肥沃さを引き出すことで、食料供給の安定化と輸入依存からの脱却に貢献する可能性があります。

このプログラムが成功すれば、アメリカは食料生産のあり方そのものを見直し、より健康的でレジリエントな食料システムを構築するモデルケースとなるかもしれません。

課題と今後の展望

しかし、このプログラムが直面する課題も少なくありません。再生農業の実践は、農家にとって新たな知識や技術の習得を必要とする場合があり、移行期間中の収量低下や経済的なリスクを伴う可能性も指摘されています。

また、土壌の健康改善が国民の健康に具体的にどのように結びつくのか、その効果を測定し、証明するための明確な指標と長期的なモニタリング体制が不可欠。これらの課題を克服し、プログラムが意図した成果を上げることができれば、アメリカの農業と公衆衛生の未来に大きな変革をもたらすはず。今後の動きに注目です。

Top image: © iStock.com / SimonSkafar
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