プラダの“うつ病ヘア”論争。新たなトレンドか、病気の軽視か
高級ブランド、プラダのショーから生まれた一つのヘアスタイルが、SNSで議論を巻き起こしている。
「デプレッション・ヘア」──意図的に作り込まれた無造作ヘアは、一部で新たなトレンドとして受け入れられる一方、そのネーミングと背景を巡って深刻な批判の声も上がる。ファッションにおける表現は、どこまでが許容されるのだろうか。
プラダのショーが生んだ“うつ病ヘア”こと「デプレッション・ヘア」
この論争の発端は、ミラノ・ファッションウィークで発表されたプラダの2025/2026年秋冬コレクション。
ランウェイに登場したモデルたちの、まるで手入れを忘れたかのようなボサボサの髪型が、多くの人々の目に留まった。
プラダ側は、このコレクションのテーマを「生々しさと洗練の対比」「女性性の多様性への問いかけ」などと説明しているという。
しかし、ブランドの意図とは別に、このスタイルはSNS上で“デプレッション・ヘア”(うつ病ヘア)と名付けられ、瞬く間に拡散した。Z世代やインフルエンサーの間では、このスタイルを模倣する動きも見られるらしい。
「病気はコスチュームではない」広がる批判と世代間のギャップ
このトレンドの広がりに対し、懸念や批判を示す声は少なくない。
最も強い批判は、うつ病という精神疾患を軽々しく扱い、ファッションとして消費しているとするもの。「病気はファッショナブルではない」「苦しんでいる人々を嘲笑している」といった怒りのコメントが、SNS上には溢れているようだ。
また、この現象は世代間の対立という側面も浮き彫りにした。
ミレニアル世代の一部からは、自分たちが経験した苦しい時代の象徴ともいえるスタイルを、Z世代が安易にファッションとして取り入れることへの反発の声が上がる。
「私のカルチャーはあなたのコスチュームではない」というX(旧Twitter)への投稿は、その複雑な心境を象徴する一言だろう。
ところが、Z世代をはじめとする若い人々にとって、このヘアスタイルは異なる映り方をしているらしい。
ユーモアか再解釈か。
終わりなき表現の是非が問われる
批判的な意見の一方で、ブランドが提唱したコンセプトの通りに解釈する人や、この騒動自体をユーモアとして受け止める人々も。
「やっと私にもできるトレンドが来た」「90年代はこれを“ベッドヘッド”と呼んでいた」など、皮肉を交えた反応は多い。一部のインフルエンサーは、このスタイルを「リラックス・ヘア」と呼び変えることを提案したり、ハウツー動画を投稿したりと、独自の解釈を加える動きも活発に。
中東の女性向けファッション誌『Laha Magazine』は、「大胆で型破りなステップ」と評価しつつ、「ルールを破りたいならソフトな形で取り入れるのも良い」と、柔軟な視点を提供しているようだ。
一つのヘアスタイルが引き起こしたこの論争は、流行の是非と言うよりも、表現の自由や文化の消費、そして世代間の価値観の断絶といった、現代社会が抱えるより深いテーマを私たちに投げかけているのかもしれない。