撮影現場に「心理的安全性」を。映画「Koupepia」が示した、創造性を解放する環境づくり

映画やテレビの撮影現場は、誰もが等しく快適であるべきだ。

当たり前のようでいて、必ずしもそうではなかったこの現実に対し、トランスジェンダーの物語を描いた短編映画『Koupepia』が、シンプルかつ力強い答えを示している。

クルーの3分の1をトランスジェンダーおよびノンバイナリーの当事者が占めたというその現場は、一体何が違ったのだろうか。英国のLGBTQ+ニュースメディア『Pink News』が報じている。

「説明が不要」な現場がもたらすもの

脚本家であり、自身もトランス女性であるSophia Vi氏は、『Koupepia』の撮影現場が「美しい環境だった」と振り返る。

クルーの多くがLGBTQ+当事者であったため、この映画が何を描こうとしているのか、その背景にある痛みや喜びを、いちいち説明する必要がなかったという。

それは結果的にプロジェクト全体を円滑に進めることに繋がり、監督のYorgo Glynatsis氏も「人々が自分のアイデンティティを隠す必要がない、非常に本物の現場だった」と語る。

作品の質は、関わる人々がいかに安心して自分自身でいられるかに、大きく左右されるのかもしれない。

当事者が背負わされてきた「余計な仕事」

Vi氏とGlynatsis監督が、ここまで「安全な現場」にこだわったのには理由がある。

Vi氏は過去に、ある広告の撮影で反LGBTQ+的な発言に直面し、自ら声を上げて状況を是正しなければならなかった経験を持つ。

それは本来、俳優が担うべき仕事ではない。創造的なパフォーマンスに集中すべきエネルギーが、自身の尊厳を守るための戦いに費やされてしまう。

こうした「余計な仕事」を当事者に背負わせない環境を整えることの重要性を、彼らは身をもって知っていたのだ。

誰もが心地よくあるための、シンプルな一歩

Glynatsis監督は、多様性のある現場づくりを「大変な要求」だと捉える風潮に疑問を呈す。

「あなたが撮影現場で快適なら、なぜ私やトランスジェンダーの人々が快適ではいけないのですか」と。

必要なのは、複雑な配慮ではなく、ただ相手を「理解しようとする」姿勢。

『Koupepia』の試みは、インクルーシブな環境づくりが、倫理的な正しさだけでなく、関わるすべての人の創造性を最大限に引き出し、より良い作品を生み出すための、極めて合理的で効果的な方法論であることを証明している。

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