チケット500円、売り上げゼロ。D.I.Yミニ映画館

小劇場、ミニシアター。大きなスクリーンのシネコンではなく、小さな空間でこだわりの一本を味わう。それは、多くの映画ファンにとっては至福の時間だろう。

ブルックリンの映画ファンが密かに通いつめる映画館が、ウィリアムズバーグにある。ニッチなカルチャーが新興し再興するこの地にひっそりと佇むその映画館、なにやら風変わりな映画しか上映しないDIYミニシアターらしい。

チケットは5ドルぽっきり。
究極のマニアック映画たち

看板のないその映画館、名前を「Spectacle(スペクタクル)」という。客席はわずか30席の、ミニというよりマイクロシアターだ。

平日・土曜は、通常午後7時30分、10時の回、ミッドナイトショー、日曜は午後3時のマチネと午後5時、7時30分の回を用意。そして連日スクリーンに映し出されるのは、どれもカルト、アングラ、インディー、アバンギャルド、マニアックといった形容詞がつくなんとも色濃い映画たちだ。

例にとってみると…(知ってるのありますか?)

・『チェブラーシュカ』などのソ連時代の子供向けアニメーション
・動物の着ぐるみに身を包んだ役者が狂気じみて演じる寓話映画『大俠梅花鹿』(1961年、台湾)
・川端康成原作のアバンギャルド/サイレント映画『狂った一頁』(1926年、日本)
・孤高の刑事が主人公のフィルムノワールへのオマージュ映画『Soplo De Vida』(1999年、コロンビア)
・90年代の女性パンクフェミニズムムーブメント、Riot Grrrl(ライオットガール)のドキュメンタリー
・アメリカ・カルト映画監督ポール
・モリッシーの作品集
・東欧やカンボジア、インドネシア、スリランカの映画シリーズ
・隔週日曜日のカンフーシリーズ
・日曜午後3時のミステリー・マチネ

そしてなんと、

・北朝鮮映画

ラインナップ、コア過ぎません?

「スペクタクルのミッションは、忘れられた映画、失われた映画にもう一度スポットライトをあてることなんだ」と語るのは、映画館ボランティアのSean Berman(ショーン・バーマン)。

地元の若いヒップスターからコアな映画ファン、昔の映画を懐かしんで見にくる年配まで、いろいろな客層が小さな映画館でスクリーンを見つめるのだ。そしてスペクタクルにはもう一つのミッションがある。それは、5ドル(約508円)で映画を提供すること。

映画館、売り上げは0

“5ドル映画館”スペクタクルができたのは、2010年。元はボッデガ(よろず屋)があった土地に建てられた。

「そのころ、ウィリアムズバーグには映画館がなかったんだよね」とショーン。「そんなこの地に映画館を作ろうと立ち上がった4、5人からスペクタクルはスタートしたのさ」。

今でこそウィリアムズバーグには、映画鑑賞しながら食事もできるNighthawk Cinema(ナイトホークシネマ)や、最新作を安く観ることができるWilliamsburg Cinema(ウィリアムズバーグシネマ)、バーとシネマが一緒になった異色のVideology(ビデオロジー)など個性的な映画館があるが、すでに街が活気づいていた6年前、ひとつも映画館がなかったとは少し意外だ。

「チケットの売り上げは全部家賃に回している。当然利益はなしだけど、そうすることで、他のシアターではお金にならないから上映しないような作品を、みんなに見せることができるんだ」と語るのは、映画館ボランティアのひとり、Aaron Schimberg(アーロン・シルムベルク)。この“5ドル映画館”はあくまでも、利益0の非営利映画館なのだ。

ボランティア30人。
予告編もポスターもフライヤーも
全て手作り

そんなスペクタクルを支えているのは、アーロンやショーンをはじめとする、30人ほどのボランティア。映画業界人からフリーランスのビデオグラファー、学生、アーティストにライター、教師など本業を持つ彼らは一銭も貰わずに、忙しい学業や仕事の合間を見つけては小さな映画館に出入りし、予告編やポスター、フライヤーなど全てを手作りする。また、他州から遠隔で作業するボランティアもいるのだとか。

そして毎回の上映には、ボランティアの1人が、シアター後方にある映写室ならぬブースに座り、プロジェクターを操る。このブースのオペレーターは、来館者から5ドルを徴収・集計するほか、室内の温度調整をしたり、上映と上映の休憩時間にBGMを流したりする。館内の掃除やお客さんとの交流も、大切な仕事だ。

そしてマイナーな上映作品たちを選ぶのも、このボランティアたち。“こういった作品でなくてはならない”という選択の基準はなく、メインストリーム映画やブロックバスター映画でなかったら、基本的にはなんでもあり。

また上映したい作品があるボランティアが、交代でプログラマーとなり、上映許可を取るところからWEBサイトの作品ページ作り、ポスターや予告編の制作依頼まで、全てを実行する。

「プログラマーになったら、Eメールと電話の毎日さ。許可が取れれば、映画自体はDVDで受け取ったり、オンラインで見つけたり、図書館で借りてきたり。ほとんどデジタル上映だけど、時々監督本人が届けてくれた16mmフィルムでも上映するよ」。

実験映画好きもいれば、ホラー映画マニアもいる。プログラマーの好みが表れる映画セレクションも、スペクタクルの醍醐味だとか。そして映画上映のみならず、監督を呼んでQ&A(質疑応答)の場を設けたり、知り合いのミュージシャンを呼びパフォーマンスをしてもらったりと、コミュニティ映画館の自由さを生かしたプログラムも。「まさしくDIYだよね」とショーンは笑う。

チケットは何がなんでも絶対5ドル

そんな“5ドル映画館”、いかに地元民に愛されているかがよくわかるエピソードがある。昨年、賃貸の契約期間を10年に延長したのだが、家賃の引き上げと正面入り口の外観を綺麗にすることが条件だった。改修費用が必要となった彼らは昨年10月、キックスターター(クラウドファンディング)での資金集めをスタート。

“5ドルの映画館”を守るために集まったサポーターは、現時点で700人以上。集まった資金は41,000ドル(約445万円)にも及んだ。

契約書にあった約束通り、表口も小綺麗にし、新しいプロジェクターや空調設備も導入、通りの音が映画館にもれてこないよう防音に。こうして生まれた新しいスペクタクルだが、資金が必要になってもチケット代の5ドルは絶対に引き上げなかった。そこまで5ドルにこだわる理由はなんだろう。

「5ドルってみんなにとって手の届く価格だし、それ以上高かったらみんな観てくれないかもしれない映画を、僕たちは上映しているから。」

世の中にあふれ出る膨大な数の映画から、見向きもされなかったり、日の目をみる機会のなかった“忘れられた映画”、“失われた映画”をひっぱり出して、30席の映画館で上映する。空席の数なんて気にしないで。

小さなプロジェクターからスクリーンに映し出されるのは、今宵新たに命を吹き返した1シーンと、映画に払う敬意なのだろう。映画をスクリーンに蘇らせたい一心。とにかく映画が好きだという直情。黒い扉の素朴な映画館を支える、そんな思いを感じ、なんとなく、町の小さな映画館を守る映写技師と少年を描いた映画『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出した。

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「時代と社会の、決まり文句にとらわれない」ニューヨークに拠点を置く、サブカル&カウンターカルチャー専門のデジタルマガジン。世界各都市の個人・コミュニティが起こすユニークな取り組みやムーブメントをいち早く嗅ぎつけ配信中。世界のマイノリティたちの生き様を届けます。www.heapsmag.com

Text by Risa Akita
Photos by Risa Akita
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