「生活スキル講座」にZ世代の行列。大人になるための補習授業が大人気なワケ
SNSのアルゴリズムを自在に操るデジタルネイティブたちが、基本的な生活スキルに悪戦苦闘している。
そんなZ世代の間で今、家賃のための予算管理からタイヤの交換方法まで、かつては「常識」とされたであろう事柄を学ぶための講座が静かなブームとなっているようだ。
これは、現代の若者たちが直面する、新たな形の成長痛の表れなのかもしれない。
「大人のなり方」を学ぶ若者たち
カナダのトロント・メトロポリタン大学に通う学生、Aldhen Garcia氏は、「タイヤの交換も、裁縫も、料理以外はほとんど何もできない」と率直に認める。
彼が特に重要だと感じているのは、金融リテラシーだという。この声は彼一人だけのものではない。同世代の多くが、自立した生活を送る上での知識不足に不安を感じている。
このニーズに応えるように、ウォータールー大学などの教育機関は、『Adulting 101』と名付けられたオンラインのツールキットを提供し始めた。
内容は健全な人間関係の築き方から、キッチンで火事を起こさない方法まで多岐にわたる。これは、若者たちが学校教育の中で見過ごされてきた、実生活に不可欠な知恵を補うための試みだ。
なぜスキルが失われた?
今日の20代が、生活スキルの道具箱を持たないまま大人になろうとしているのはなぜか。
サンディエゴ州立大学の心理学教授、Jean Twenge氏は、その原因を「ヘリコプターペアレント」に代表される過保護な子育てと、若者が親元で過ごす期間が長くなる「思春期の延長」にあると指摘する。
子どもたちが自律的に物事を学び、問題を解決する機会を十分に与えられないまま、社会に送り出されているというのだ。
この問題は、学校教育の変化も無関係ではない。ニューヨーク市の高校生、Zack Leitner氏は、かつては男女問わず必修だった家庭科の授業がなくなったことで、現代の若者は実践的なスキルを学ぶ機会を失ったと主張する。
「今日の若者に必要なのは『Adulting 101』の授業だ」と彼は訴える。シーツのたたみ方や鶏肉の焼き方すら知らずに社会に出ることが、若者を不安にさせているという見方だ。
変化する社会と教育の役割
こうした状況を受け、ウォータールー大学で学生の成功を支援する部門のディレクター、Pam Charbonneau氏は、「あなたが経験していることは普通のこと。
多くの同級生が同じような経験をしている」と学生たちに語りかけ、大学が支援を提供する意義を強調する。
しかし、専門家はより根本的な解決策が必要だと考えているようだ。Twenge氏は、「子どもたちの自由を制限し、実践的なスキルを教えないことは、彼らに不利益をもたらしている」と警鐘を鳴らす。
金利の計算であれ、シャツのアイロンがけであれ、無知は安らぎではなく、高くつくものだからだ。このトレンドは、家庭と学校、そして社会全体が、若者を「大人」へと導く役割をどう果たしていくべきか、という問いを私たちに投げかけている。






