「あらゆる業界を無人化する」。Z世代CEO・中尾渓人さんの頭の中がヤバかった……
社会課題に革新的な技術で挑む、スタートアップや未公開企業が近年増えています。そうした未来を拓く、新たな力へと積極的に投資を行う「未来創生ファンド」をご存知ですか?
スパークス・アセット・マネジメントが運用するこのファンド、投資先企業と投資家が連携することでイノベーションを加速させ、社会全体の成長と発展に貢献することを目指しています。
では、彼らが新しい価値と捉える企業の“顔”って、どんな人?
「あらゆる業界を、無人化する」という挑戦的なビジョンを掲げ、ロボティクスの力で労働システムのアップデートに挑む、株式会社New Innovationsの中尾渓人さん。淡々ととんでもないことを言う26歳の根底には、社会の仕組みに本気で向き合い、未来を動かす強い意思がありました。
未来創生ファンドとは?
スパークス・アセット・マネジメント株式会社が運用し、トヨタ自動車や三井住友銀行をはじめとする事業会社が出資するベンチャーファンド。2015年の運用開始以来、未上場の革新的企業や社会実装型プロジェクトに投資し、投資家の事業ネットワークや知見を活用した成長支援を特徴とする。
投資テーマは知能化技術、ロボティクス、水素、電動化、新素材、カーボンニュートラルなどで、日本や米国、イスラエル等の幅広い地域が対象。2025年1月末時点での累計コミットメント額は1,778億円、158社に投資し38件がIPOやM&Aで出口を迎えるなど、技術革新と社会課題解決を両立する取り組みを継続している。
キャリアの起動スイッチは
小学生で作った「5人乗りEV」
海と山に恵まれた和歌山県で生まれた中尾渓人さん。子どもの頃からモノづくりに夢中だったそう。まずは、原体験から伺ってみました。

──小学生の時にはすでにロボット開発をしていたそうですね。普段の遊びがそのまま発展したものだったんですか?
はじめは木工作でしたが、次第に「光らせたい」「動かしたい」と思うようになりました。小学校に上がった頃には、モーターとバッテリーと簡単なスイッチをつけて、友だちが乗れる車を作っていましたね。子どもの体重なら5人乗っても走るEVみたいなものです。その頃から電子工作に惹かれていきました。
誰に教わったわけではありませんが、工作キットの説明書を一読すればだいたい理解でき、あとは試行錯誤しながら必要な技術を身につけていきました。
──モノづくりにおいて、一番魅力を感じるポイントってどこですか?
子供の頃から、何かを作りたいよりも「便利になりたい」という気持ちが先にあったのかもしれません。たとえば熱い味噌汁をどうやったら早く冷ませるか。氷を入れればそれで済むことですが、私は電池でプロペラを回す装置を考える、といった感じで。
──ぶっ飛んだ発想ですね。
人から頼まれたものであれ、自分発信であれ、欲求を形にしていくことにおもしろさを感じていたんだと思います。
正しさだけじゃ、勝てない。
ロボカップで学んだ、社会のリアル
やがて中尾少年のモノづくりは、「動かす・活用する」フェーズへと変わっていきました。10歳で国際ロボット競技大会「RoboCupJunior(ロボカップ・ジュニア)」に初出場。そこで社会構造の縮図のような“勝ち負けのリアル”を体験することになるのです。


──ロボカップ出場で何を学びましたか?
ロボカップは「競技」なんです。負けたら無価値の世界。勝つために開発するという明確な目的が生まれたのが、それまでのモノづくりとの大きな違いです。私が出場していた「サッカー」は、戦略・戦術のある団体種目。親や学校の先生による技術的な介入は御法度で、厳格なルールもある。でも、日本代表になって世界大会に出場してみると、平然とルールを破るチームもいました(笑)
──勝利至上主義というか、意外とダークな世界なんですね。
もちろんスポーツマンシップもあるし、教育的、倫理的側面もあります。今にして思えばすごく事業性が高く、ビジネスに近いものがあるなと思います。グランドルールがあって審判がいて、不正やグレーゾーン、観客や第三者の存在など、現実の縮図を体感しました。勝つための交渉と戦略、したたかさも必要でしたね。
──なるほど。そうしたなかで自分たちの勝負を貫いていく。
厳しい現実があるなかで、どうやって自分たちの倫理観で勝ちを狙いに行くかを小学校、中学校の頃から考え取り組みましたね。本当に多くのことを学びました。
──勝つためのロボットづくりで得たものは?
最新技術を組み込んでも、お金をかけて作っても、負けることはある。逆にありきたりな技術しか入れていなくても、戦略を徹底してみたらめちゃくちゃ勝てることがある。研究や技術、開発としてのレベルの高さと、勝ち負けが全然一致していないということに気がついたんです。そこで、技術起点のプロダクトアウトではなく、顧客のニーズを起点としたビジネスに取り組もうという感覚を持つようになり、それは今の事業のあり方のベースにもなっていると思います。
センター試験1日目に起業決意
18歳、“レールの外”で生きる覚悟
やがて、ロボット開発を基軸にした実業化へと進んでいきます。15歳ではじめたシステム開発事業の取引先は300社を超え、18歳で起業するまでとんとん拍子のステップアップ。けれど……必ずしも「上手くいったわけではなかった」とご本人。その真意は?

──起業は、ロボカップジュニア時代の仲間と一緒に?
いえ、自分だけで。起業したのは2018年1月23日、大学入試センター試験の1日目に手続きをしました。潰れない限り死ぬまでやろうという覚悟でした。
──若くして起業というのも、かなり覚悟がいったんじゃないですか?
じつは当時、起業に対するいいイメージはなく、どちらかと言えばネガティブでした。極端に言えば、お金は怖い、借金は悪だ、投資家は危険な人のような感じで、ファイナンスとかベンチャーキャピタルに対する世間的な理解がまだ進んでいなかったんです。
──それでも起業を決めた、最大の理由はなんだったのでしょう?
大学入試センター試験でやらかしまして(笑)
──「やらかし」って、どれくらいのことですか? 志望校のレベルが高すぎたとか?
大学に行くのは諦めようと思うほどです。暗記やテストが好きではなくて、要するに受験勉強に向いていなかった。浪人してまでいい大学に行こうというモチベーションも続かなかっただろうと思います。学歴社会に乗る選択肢は消えた。ならば上にも下にもボラティリティが広がる起業で勝負するしかないと覚悟を決め、センター試験が終わったその足で登記の手続きをしました。
ロボットっぽさ、必要?
“映えない”技術で社会をハックする
起業から8年。New Innovationsは、開発から組み立て、コーポレートまで、すべての機能をひとつの拠点に集約し、自社製造にこだわり続けています。
現在、開発の現場を支える多くはロボカップやロボコンの出身者たち。ライバルチームのメンバーにも声をかけ、次々に仲間として迎え入れているそうです。


かき氷機と自動連携する全自動調理ロボット「Kakigori Maker」。ビジョンシステムで温度・湿度・氷密度にも左右されない、均一な盛り付けを実現し、効率化と品質安定を両立。(画像提供:New Innovations)

アプリ注文と非接触受け取りが可能なスマートコーヒースタンド「root C」。ロボット技術で一杯ごとに高品質なスペシャルティコーヒーを提供する。
──ロボコン出身と聞くと、「二足歩行」や「ロボアーム」など、派手な技術を想像しますが、なぜ派手なロボットではなく、地味な実用型を?
事業として成立させ、経済的価値を生み出したいからです。お客様のニーズに応えて適切な対価をいただけるソリューションを提供できれば、そこで使っている技術が派手か地味かは本質的な問題ではありません。
それに、二足歩行やアーム系は社会の汎用空間では成立しないことを十分すぎるほど理解している。10年近くロボットに向き合ってきましたからね。だから事業ではやりません。
──では、中尾さんが考える「事業になるロボット」とは?
一言で表現するなら、“泥臭い”技術です。技術者からすれば、直線の動きをするだけなんて、「しょーもなっ!」と思われるかもしれませんが、重いモノを持つのがしんどい人にとっては、それだけでありがたい。そこには「価値のギャップ」があります。商売はこのギャップなので、壊れない・軽い・省スペース、そういう要素の方が価値になるんです。
ただ、いつかキャズムが逆転するタイミングもあるでしょうし、「ロボティクスというロボット」がお客様に価値を生む時代がくると思います。先ほどお伝えしたような派手な技術に対してアンチとかネガティブというわけでは決してなく、今その事業性がないからやっていないということです。
──「人類を前に進め、人々を幸せにする」をミッションに掲げ、「あらゆる業界を無人化する」としているなかで、なぜ調理ロボットに注力しているのですか?
まず、「人類を前に進め、人々を幸せにする」というのは会社の中で不変の理念で、これを変えるくらいだったら会社を潰してもいいとさえ思っています。テクノロジーの発展と、人々の豊かさや幸せは必ず一致する。それを科学技術で実現するために事業を行っています。逆に「あらゆる業界を無人化する」は、どんどん変わっていっていいワードだと思っていて。実はこの言葉には、裏メッセージがあるんです。
──というと?
業界全体のなかで、付加価値がつかない工程をテクノロジーで徹底的に無人化して、人間の労働を“人的付加価値”が生まれる行為にアロケーションするという狙いがあります。
たとえば、配膳ロボットが普及して便利になるのは素晴らしいこと。でも、顧客はその利便性に対して追加の価値を払うわけではありません。省力化によって生まれた時間やリソースに、人間だからこそ生み出せる付加価値が加わることで、「もっとお金を払ってもいい」と思うわけですよね。つまり、人がより価値のある仕事に集中できるようになれば、経済のグロースバリューは増えるはずだと考えています。
──その第一歩として、なぜコーヒーを選んだのですか?
リピート性が高く、付加価値を感じてもらいやすいという観点からです。コーヒーって、1つのセグメントなのに、1杯30円のものから、3000円近いものまで存在します。でも全部「コーヒー」であることには変わりないですよね。お客様は価値だけでコーヒーを選ぶのではなく、その背景にある「体験」や「こだわり」に価値を見出している。そのマーケットの幅広さと、私たちの技術で、価値を届けたいという思いが「root C」開発の起点です。
メーカーだけど、メーカーじゃない。
「変換器」であり続けたい理由
現在、飲食業とサービス業をメインストリームに据えるNew Innovationsですが、今後は小売、宿泊、物流、さらには医療、介護などにも事業を広げていく予定と話す中尾さん。あらゆる業界の“無人化”に向けた、次なる一手は?

──New Innovationsは開発から製造まで一貫していますが、あまり“メーカーっぽさ”を押し出していませんよね?
お客様に一般的なメーカーだと思われないようにしたいんです。なぜなら、私たちのキードライバーは、技術力よりビジネス力だから。お客様に対する価値訴求は絶対にビジネスサイドなので、メーカーとしてのアイデンティティは大事にしつつも、お客様との間では常に「変換器」でありたいと考えています。
──「変換器」という表現はユニークですね。
お客様が抱える暗黙知やまだ整理されていない課題を、価値のあるソリューションに変換する。そういった強みを「変換器」という言葉で表現しています。
他の産業が成長の真っ只中にあるのに対し、日本のメーカーは成熟しきった偉大な企業が多いですよね。でも、今の飲食や小売などの業界の人たちは、自分たちと同じ速度で成長していける、柔軟なパートナーを求めている部分もあると思うんです。New Innovationsは、まさにそんな存在になれると思っています。
──成熟したメーカーも、かつてはベンチャーでした。
間違いないです。彼らが日本の経済成長を力強く支えてきたからこそ、今の私たちがあるのだと思います。
当時は、社会全体でイノベーションを生み出すエコシステムが機能していましたが、今はその機能にギャップが生まれていると感じます。私たちは、技術を追求するだけではなく、ビジネスを通じてお客様の課題を解決する「次世代メーカー」として、メーカーが本来持つべき価値を再定義したい。時代と歩調を合わせて進み、かつての偉大なメーカーのように、社会に夢を見せられるような存在でありたいと強く思っています。
社会構造にインパクトを与える視点
投資家が見た、“異才”の本質

2025年5月、New InnovationsはシリーズBラウンドでの資金調達を実施。その引受先のひとつが、先述の「未来創生ファンド」でした。
出資先としてのポテンシャルを見出した、次世代成長投資部ヴァイス プレジデント、田中裕也氏はこう語っています。
「中尾さんを含めたNew Innovationsの技術力の高さをまず評価しました。ロボット技術を社会課題の解決にどう結びつけていくか、そこを考え抜いて実行する姿勢に強く共感しています。
単にプロダクトをつくるのではなく、社会全体の構造にインパクトを与える視点を持っている。投資としての価値は非常に大きいと判断しました」
学生時代からロボカップで培ってきた技術とビジネスマインドのハイブリッド、そこに中尾さんの異才を感じたとも。
技術・開発力はあれど、なかなかビジネスとして成功しないロボット系スタートアップが多いなか、いいロボットを作って終わるのではなくどう価値を届け、どう経済として成立させるかを徹底的に考え抜く。その視点と行動力が、スタートアップとしてのNew Innovationsに対する評価につながっているのでしょう。
そうそう、田中氏がこんな話もしてくれました。
投資検討の過程で中尾さんに「経営者としてどうなりたいんですか?」と尋ねたところ、即答で返ってきたのが「圧倒的に売り上げを立てて数字で結果を出す」という言葉だったそうです。夢がありますよね。単に技術や理想を語るだけの人にはならず、堅実に事業を成功させるという覚悟の表れなのかもしれませんね。
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