Z世代にもワクワクしてほしい。日本のモノづくりがこれからもっと強くなる話

高い技術力を持ちながら、「地味」「古い」といったイメージを持たれがちな日本の製造業。でも、今、その現場が静かに、そして熱く進化を始めています。

最新の設備? DX化? それもあるけれど、実はもっとおもしろいのは、“人”が変わってきていること。現場で汗をかくブルーワーカーたちが、自ら問いを立て、改善を重ねる知的ワーカーへと進化を遂げつつあるんです。

そんな“考える工場”の最前線を知るために訪れたのは、「株式会社IJTT」海老名工場。彼らを支えるのは、スパークス・アセット・マネジメントが運用する「日本モノづくり未来ファンド」というもの。

これ、単なる投資ではなく、現場に深く入り込むそのスタイルがかなりユニークなんです。

日本モノづくり未来ファンド(以下、モノづくりファンド)とは?

スパークス・アセット・マネジメントが運用し、トヨタ自動車や三大メガバンクが出資する、日本の製造業支援に特化したファンド。2020年に設立され、トヨタ生産方式(TPS)を活用した現場改善や経営支援を通じて、実力はあるが、その力をうまく出しきれていない製造業の再成長を後押しする。単なる資金提供にとどまらず、ものづくりの現場に深く入り込んで企業価値の向上を目指すユニークな取り組みが特徴。

投資するだけじゃない
“汗をかくファンド”の現場主義

「無駄な作業を人にやらせるのは上司の責任。本当に必要な仕事に集中できる仕組みと環境をつくれば、人の顔は自然と変わります」。

そんな信念を胸に現場の変革に挑むのが、モノづくりファンドから取締役会長として派遣されている深見正敏さん。その言葉を裏付けるように、海老名工場では作業管理が紙ベースから大型モニターへと進化中。リアルタイムでの情報共有が、効率だけでなく現場の空気までも一変させつつあります。

製造部 保全グループ・小俣祐也さん

以前は紙の伝票を持って走り回っていました。担当者の名札をホワイトボードに貼って管理していたんです。ですが、今はモニターで全員が同じ画面を見て動けるため、情報共有のスピードが上がり、雰囲気も確実に明るくなったと感じます。

モニターを囲んで声を掛け合う光景は、かつての静かな工場のイメージとはまるで別物。リアルタイムで情報を見ながら、自分たちで工夫して回していく——そんな空気が工場の中に流れ始めていました。

こうした変化を支えているのが、「モノづくりファンド」独自のアプローチです。最大の特徴は、投資先の現場に深く入り込み、社員と肩を並べて改善に取り組むこと。財務諸表の数字だけで判断せず、生産ラインに入り課題を一緒に解く。その姿勢は金融業界でもかなり異例です。

その根底にあるのが、スパークスが大切にしている「現地現物」という哲学です。机の上で考えるだけじゃなく、リアルな現場に立ってこそ本当の課題が見えるというスタンス。そうした考え方が、海老名工場でのDX推進や日々の小さな改善を支える原動力となっているようです。

投資という「行為」を通じて、現場の働き方や思考の仕方そのものが少しずつ変わっていく。理念と実践がカチッとはまった瞬間、“汗をかく投資”はスローガンじゃなくリアルな姿になります。

TPSってただの効率化?
実は“考える工場”の仕組みだった

「現場に入って一緒にやるのは、単に効率を上げるためじゃなく、チームとして強くなるためなんです」。そう語るのは、現場改革を指揮する取締役の豊村薫雄さん。スパークスがトヨタ自動車に依頼しIJTTへと出向してきました。

IJTTの変革を大きく後押ししたのが、「トヨタ生産方式(TPS)」の導入でした。

TPSと聞くと「効率化の仕組み?」と思われがちですが、実はもっと奥深い。従業員みなが楽にスムーズに仕事ができるようにするため、現場で問題を“見える化”し、ひたすら「なぜ?」を問い続け、知恵を総動員して解決していく——。言ってみれば「問い続ける仕組み」です。

最初に取り組んだのは、生産現場におけるモノと情報の流れを図表に描いて見える化すること。これによって、どの工程にムダが潜んでいるかが一目でわかるようになりました。こうした小さな気づきが改善の一歩になり、失敗を恐れずチャレンジできる文化が少しずつ根づいていったそうです。

 

生産設備の稼働について掲げられた目標「故障ゼロ」に対し、当初、設備保全担当の小俣さんはこう思ったといいます。「ゼロ?嘘でしょ」。従来であれば、100を半減して50にするという発想が当たり前だったから。けれど今はゼロを前提に考えるようになった。予算の後押しもあり、本気で取り組めるようになったそう。

ムリに思えるゼロを本気で目指す。その挑戦が現場のマインドセットを根底から変えたのです。

製造第1グループの小島翔弥さんも、以前は日々の作業に追われ改善を考える余裕がなかったと言います。けれど今は、「後輩に改善を実体験させたい」と考えるようになったそう。自分が気づきを得たように、後輩たちにも現場の学びの機会を広げ、“考える楽しさ”を伝えたい。そんな空気が現場に広がっています。

さらにスパークスは、社員が他社の生産現場を見学する機会も用意しました。小島さんはトヨタ工場を訪れたときの驚きをこう話します。

製造部 製造第1グループ・小島翔弥さん

働く人の表情が全然違ったんです。大変な作業をしているはずなのに、下を向いている人はいない。みんな生き生きとしていました。その姿を見て、IJTTも変わらなければと思いました。

TPSの理念と社員のリアルな体験が重なり、IJTTの現場は確実に「やらされる場」から「考える場」へとシフトし始めているようです。

「知的ワーカー」への進化が始まった!

スパークスの投資がもたらした最大の変化のひとつ。それは、社員が「自分からやりたい」と動き始めたことでした。以前は決められた作業を淡々とこなすのが当たり前。それが今では、「これをやりたい」と手を挙げる社員が増えてきたんだそう。

変化の背景には、ブルーワーカーから知的ワーカーへの意識変革がありました。与えられた作業をこなすだけではなく、自ら課題を見つけ、仲間と共有し、解決に挑む。そんな“考える力”を持った人材こそ、これからの製造業を支えていく存在なのでしょう。

深見さんは、その変化の出発点を「付加価値を生む作業と、そうでない作業をきちんと分けること」だと語ります。どんな仕事でも「これは何のため?」と問いを立てることで、やらされる改善から“考える改善”へのシフトは着実に実を結びつつあるようです。

失敗歓迎!
挑戦が“当たり前”になる工場

ものづくり推進グループのリーダー・村井良子さんが語ってくれたのは、IJTTならではのユニークな取り組みです。

工場内には「からくり道場」と呼ばれるスペースがあり、社員が自ら考えた改善アイデアを実践しているそうです。動力を使わず、重力やバネなどの仕組みでモノを動かす“からくり”の技術。昔ながらの知恵をベースに、現代の現場にフィットするアイデアを生み出しているのです。その様子は動画に撮影して共有され、SNSの投稿のように工場内でアイデアが飛び交う。

現場には自発的な、改善・発信の風土が育ち始めたと村井さん。改善はいつしか、やらされるものから“見せたくなるもの”へ。この空気の変化が、工場全体をポジティブに変えつつあるようです。

こうした積み重ねは、挑戦に対する姿勢にも影響を与えていました。失敗をネガティブにとらえるのではなく、次のチャレンジへの一歩と捉える前向きな空気が育まれているのです。

「毎日課題が出てきて、それを解決していく。小さな成功体験が積み重なれば、“次もやれる”と思える。その積み重ねが現場を強くするんです」。そう実感を口にする豊村さん。

社員一人ひとりが自分の頭で考え、仲間と共有し、挑戦と学びを繰り返す。能動的なこの循環が大きなエネルギーへと変わりつつある。そうした姿こそ、知的ワーカーの本質なのかもしれませんね。

キツい・汚い・危険──かつて「3K」と揶揄された製造業。けれど今のIJTTを見ていると、「考える仕事の舞台」へと確実に進化していることが実感できます。

未来へ託すバトン
投資が果たす本当の役割

ところで、モノづくりファンドの投資期間は3〜5年。スパークスはこれを「納期」と呼び、その限られた時間の中で体質を強化し、自立した会社へと進ませます。重要なのは、短期的な利益ではなく、資本の形が変わっても人材と技術が持続していくこと。そこに本当のゴールがある、と深見さんは強調しました。

「出口は“終わり”ではなく、次のバトンを渡すこと。年輪を刻むように日々成長しているということが大切。人が変化に対応できる会社にしていくことが大事なんです」。

投資は、次の世代へ挑戦をつなぐための仕組み。その“バトンリレー”が、ものづくりをもっと強くしていくのかもしれません。

働くとは、変えていくこと。

遡ること2020年のコロナ禍。技術や人材をどう守り、未来へつなぐか──その問いからモノづくりファンドは生まれました。いま、その延長線上にあるIJTTでは、社員が表情を変え、自ら挑戦を語り、失敗を恐れず改善を重ねています。「日本のモノづくりはまだまだ強くなれる」と示すかのように。

そして、このマインドは製造業だけじゃなく、社会で生きる私たちみんなに通じるものだと思います。挑戦は改善を呼び、改善は次の挑戦につながる。その循環は、まるで生態系のように未来へ受け継がれていきます。

働くとは、変えていくこと──。
その感覚は、キャリアだけじゃなく、日々のちょっとした工夫や挑戦にもつながるもの。楽しみながら動き出す姿勢が、未来を形づくっていくのではないでしょうか。

 

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