ファンが作る予告編が本家を超える日。Lionsgate、TikTokの「ファン編集者」を公式採用

映画のワンシーンを切り貼りし、流行りの音楽に乗せて数秒間のモンタージュを作り上げる。

TikTokで日々無数に生み出される「ファン編集動画」は、時にオリジナルの予告編を超える熱量と拡散力を持ち、作品の運命すら左右することがある。このファンダムの熱狂を、映画会社Lionsgateが公式のマーケティング戦略に取り込み始めた。

米国のエンタメ業界誌『Variety』が、その大胆な試みを報じている。

「ファンの言葉で話す」ための決断

Lionsgateのデジタルマーケティングチームは、Facebookなどでは洗練された公式の声を保ちつつ、TikTokではプラットフォームに根ざした「ネイティブな」コンテンツを作ることを目指した。

しかし、企業が若者文化を安易に模倣すれば、痛々しい結果を招きかねない。
そこで彼らが下した決断は、動画を真似るのではなく、その作り手であるファン自身を雇うことだった。

同社のアカウントを管理するFelipe Mendez氏は、TikTokで人気の編集者約250人に声をかけ、その中から約15人の公式クリエイターチームを結成したという。

ブランドからの逸脱を恐れない姿勢

Mendez氏は、TikTokで成功するためには、ブランドが「自社ブランドからいかに逸脱できるか」、つまり自らをパロディ化することも厭わない姿勢が重要だと語る。

事実、Lionsgateが投稿した『ハンガー・ゲーム』のファン編集動画では、主人公の象徴的な口笛が、全く文脈の異なるフロ・ライダの楽曲とマッシュアップされている。

この一見過激なアプローチは、ファンがすでに熱狂しているアーティストに敬意を払い、「あなたがすでにやっていることを、私たちと一緒にやってほしい」と呼びかけることで成立しているのだ。

口コミが視聴率を動かす時代

ファン編集動画の効果は、単なる話題作りにとどまらない。

2010年代のドラマ『SUITS/スーツ』が2023年に最もストリーミングされた番組になった背景には、TikTokでのバイラルがあったとMendez氏は分析する。

実際に、あるユーザーが投稿した映画『クリード』の編集動画が1億9500万回再生された週には、同作の視聴率が29%増加したというデータもある。

Lionsgateの最終的な目標は、短期的な収益ではなく、ファンとの継続的なコミュニティを築くことにある。

ファン編集という「ファンからのラブレター」に企業が真摯に応えることで、ブランドとファンの間には、かつてないほど強固な信頼関係が生まれつつあるのかもしれない。

Top image: © iStock.com / nicoletaionescu
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