ガムを「噛むだけ」で終わらせない時代がやって来た

米ファンクショナルガムブランドのNeuro(ニューロ)が、創業以来初となる公式ブランドキャンペーン「Gum Is Dumb, Neuro Is Smart (Gum)」を発表しました。「ガムはもう時代遅れだ」と言い切るその挑発的なメッセージの裏には、私たちの「噛む」という日常行為を根本から問い直す、興味深い視点が隠れています。

累計5億個を売った「スマートガム」

Neuroは2015年、Kent Yoshimura氏とRyan Chen氏によって共同創業されたブランドです。同社の主力製品であるEnergy & Focusガム・ミントには、天然カフェイン、L-テアニン(リラックス効果で知られるアミノ酸の一種)、ビタミンB群が配合されています。特許取得済みの「コールドコンプレッション技術」により、成分の吸収率とバイオアベイラビリティ(体内で実際に利用される割合)を最適化しているとのこと。

創業以来の累計販売数は5億個以上。TikTok Shopではトップ10ブランドに成長し、Amazonでは同カテゴリーの創出者として認知されるまでになりました。Whole Foods、Walmart、CVS、Sproutsといった主要小売チェーンにも展開済みで、2026年5月にはCostcoへの進出も予定されています。

こうした実績を積み上げてきた同社が、なぜ今このタイミングで「ガムはダメだ」と宣言するキャンペーンを打ち出したのか。そこには、停滞するガム市場と急成長する機能性ガム市場という、明確なコントラストがあります。

ナマケモノが象徴する「惰性の消費」

今回のキャンペーンで目を引くのは、クリエイティブの中核に本物のナマケモノが起用されている点です。ナマケモノは葉を消化するのに約2週間かかるとされる動物。同社はこれを、何十年も変化のなかった従来のガムカテゴリーの「眠たさ」を象徴するキャラクターとして選んだといいます。

ヒーロー動画では、ジャングルの中でピンクの風船ガムをのんびり噛むナマケモノが登場。そこにNeuroの鮮やかなブランディングが鋭く割り込み、ナマケモノが同社のスマートガムに切り替えた途端、クラシックピアノを優雅に演奏しているという——なんとも痛快なオチが待っています。

同社マーケティングVPのMeghan Hurley氏は、「何十年もオートパイロット状態だったカテゴリーを、最も楽しく予想外の方法で目覚めさせる」と語っています。この言葉が示すのは、単なるブランドの差別化戦略ではなく、消費者が無意識に続けてきた「惰性の選択」への問いかけではないでしょうか。

実際、ガム市場全体の年平均成長率が約4%にとどまる一方で、機能性ガム市場は約8〜10%のペースで拡大しているとされています。Grand View Researchの調査によれば、機能性ガム市場は2024年の約21.7億ドルから2030年には37.6億ドルに達する見通しです。従来のガム市場の成熟・停滞と、機能性ガムの急成長。この対比こそが、「Gum Is Dumb」という挑発的メッセージの市場的な裏付けになっています。

「噛む」が変えるウェルネスの入口

ここ数年、「ノートロピクス」と呼ばれる認知機能をサポートするサプリメント市場が急速に拡大しています。Grand View Researchによると、同市場は2025年の約52.2億ドルから2033年には132.9億ドル規模に成長すると予測されており、特にミレニアル世代やZ世代が主要な消費者層を形成しているとのこと。

しかし、エナジードリンクを何本も飲んだり、サプリメントのカプセルを毎日管理したりすることに、どこかハードルを感じている人は少なくないはずです。そこに「ガムを噛む」という、誰もが知っている日常動作で認知パフォーマンスにアプローチできるとしたら——。これは、いわば「マイクロドーズ型ウェルネス」とでも呼べる新しい健康行動のかたちかもしれません。小さな単位で、日常の中に自然と健康的な選択を組み込んでいく。そんな志向が、特に若い世代を中心に広がりつつあります。

NeuroのChief Commercial OfficerであるBrian Evangelista氏は、今回のキャンペーンの目標として「スマートガム」カテゴリーの確立、新ロゴ・パッケージの披露、そしてブランドストーリーの初発信の3つを挙げています。キャンペーンはConnected TV、ペイドメディア、オーガニックソーシャルなど主要チャネルで展開されるほか、体験型イベントやインフルエンサーとの連携、大学アンバサダープログラムも計画されているそうです。

新カテゴリーが直面する課題

もっとも、新しいカテゴリーを切り拓くことには固有の難しさもあります。同社の製品は、Walmartではサプリメント売場に、CVSではレジ横の通常ガムコーナーに並んでいるとのこと。「ガムなのかサプリなのか」——店頭での配置が統一されていないことは、消費者が商品を見つけにくいという課題に直結します。

これは、既存のカテゴリーの枠組みに収まらない製品が市場に登場するたびに繰り返されてきた、ある種の「成長痛」とも言えるでしょう。かつてプロテインバーがお菓子売場と健康食品売場のどちらに置かれるべきか議論されたように、スマートガムもまた、自らの「居場所」を消費者の認知の中に確立していく必要があります。

「ガムを噛む」という、あまりにも当たり前すぎて誰も疑問を持たなかった行為。そこに「なぜ噛むのか」という問いを投げかけたNeuroのキャンペーンは、私たちの消費における無意識の惰性を、ユーモアたっぷりに可視化してくれました。次にガムを手に取るとき、ふと「この一粒に何を求めているんだろう」と考えてしまう人が増えるとしたら、それだけでこのキャンペーンは成功と言えるのかもしれません。

Top image: © Neuro
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。