しれっと「本音を伝えるカルタ」家事分担の対話を変える
NPO法人ひと・コネクト兵庫が運営するライフアシストプロが、家事・育児の「見えない負担」を可視化するカルタカードとLINEスタンプの全国展開を発表しました。「正しさ」ではなく「笑い」で家庭内の対話を促すこのアプローチ、ちょっと気になりませんか。
数字が示す「見えない家事」の現実
家事・育児の負担が女性に偏っている——。この事実は、もはや多くの人が「知っている」はずです。内閣府の調査(令和元年度「家事等と仕事のバランスに関する調査」)によれば、夫婦間の家事分担比率は「妻」「どちらかというと妻」の合計でおおむね8割を超えています。さらに、食材の在庫管理や献立を考えるといった、いわゆる「名もなき家事」に至っては約9割を妻が担っているというデータもあります。
しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、「数字で可視化されたからといって、家庭の中で何かが変わったのか?」ということ。統計は問題の存在を証明してくれますが、夕食後のリビングで「ねえ、この調査結果見て」とスマホを差し出しても、建設的な対話が始まるとは限りません。むしろ、責められていると感じたパートナーが防御的になり、会話が平行線をたどる——そんな経験をした方もいるのではないでしょうか。
実際、ある住宅設備メーカーの調査では、共働き世帯の約6割がパートナーの家事に不満を抱えている一方で、「家事シェアについて話し合ったことがある」と答えた人は半数に届かなかったそうです。つまり、不満はあるのに話し合えない。この「対話の断絶」こそが、見えない家事問題の本質的なボトルネックなのかもしれません。
「しれっとゆう子さん」という発明
そんな膠着状態に、ちょっとユニークな角度から風穴を開けようとしているのが、NPO法人ひと・コネクト兵庫のライフアシストプロが生み出したキャラクター「しれっとゆう子さん」です。
ゆう子さんは、2度目の育休中のワーキングマザーという設定。上司の冷たい態度、夫の育休拒否、上の子の育児——現代の多くの女性が抱えるリアルな葛藤を体現しています。最大の特徴は、その名の通り、不満を爆発させるのではなく「しれっと」本音を伝えるしなやかさ。怒りでも諦めでもない、絶妙な温度感が共感を呼ぶ仕掛けになっています。
このゆう子さんを主役にしたカルタカード「みんなで気づく 家事と育児と思いやり しれっとゆう子さん」は、絵札・読み札各46枚のセット。時短家事コーディネーターや管理栄養士、保育士、イラストレーターなど多彩な専門家チームが共同開発したもので、家事・育児にまつわる46のリアルなシーンが描かれています。
カルタという形式が秀逸なのは、「遊び」の文脈に課題を埋め込んでいる点です。読み札を読み上げ、絵札を取り合う。そのプロセスの中で「あ、これうちもある」「え、これって大変なの?」という気づきが、笑いとともに自然発生する。正面から「あなたの家事分担、少なくない?」と切り出すのとは、心理的なハードルがまるで違います。
加えて、LINEスタンプ「しれっとゆう子さんから夫に贈るスタンプ 第一弾」も展開中。「言いたいけど言えない」日常のモヤモヤを、ゆう子さんが絶妙な表情で代弁してくれるコミュニケーションツールです。直接言葉にするのは気が引けるけれど、スタンプなら「冗談っぽく、でも本気で」伝えられる。デジタルとアナログの両面から対話の入り口をつくる設計は、よく考えられていると感じます。
自治体・企業が注目する理由
この取り組みが個人の家庭内にとどまらず、社会的な広がりを見せている点も注目に値します。同団体の発表によると、すでに三田市の人権・男女共同参画プラザ主催事業として採用されたほか、相生市・綾部市・芦屋市の男女共同参画イベントでもカルタが活用されるなど、複数の自治体での実績を積み重ねてきたとのこと。
内閣府の世論調査(令和4年)では、男性の家事・育児参加を促進するために必要な条件として「夫婦間のコミュニケーション」が上位に挙がっています。行政の立場からすれば、「対話を促すツール」は施策の実効性を高める具体的な手段として魅力的に映るのでしょう。
さらに、企業のDE&I(多様性・公平性・包括性)推進や男性育休取得促進の文脈でも活用が想定されています。新入社員研修で仕事と家事・育児の両立への不安を口にする若い世代が増えているという声もあり、「家庭のことは家庭で」と線引きできない時代になりつつあることがうかがえます。産休・育休に入る従業員へのコミュニケーション支援ギフトとして福利厚生に組み込むというアイデアも、同団体は提案しています。
「笑い」が変える対話の質
社会課題を「深刻に訴える」のではなく「笑いながら気づく」体験に変換する——。このアプローチには、ある種の知恵が詰まっているように思います。
男女共同参画の啓発活動は、ともすれば「正しさの押しつけ」と受け取られがちです。正論であればあるほど、聞く側は身構えてしまう。けれど、カルタを囲んで「あるある!」と笑い合う時間の中では、誰も加害者にならず、誰も被害者にならない。その安全な空間があるからこそ、「じゃあうちはどうする?」という次のステップに進めるのではないでしょうか。
「しれっとゆう子さん」のカルタは税込3,982円でECサイトにて販売中。全国展開が本格化するこのタイミングで、まずは家族の団らんに一箱、取り入れてみるのも面白いかもしれません。深刻な顔で話し合うより、カルタを取り合いながらのほうが、案外、本音が出てくるものです。


『しれっとゆう子さんカルタ』
【価格】3982円(税込)
【WEBサイト】https://human-connect-hyogo.org/, https://lifeassistpro.jp/
【ECサイト】https://lifeassistpro.stores.jp/






