奈良では駄菓子屋が「eスポーツの入口」になってるらしい

奈良県生駒市の駄菓子屋で、Nintendo Switchを持ち寄った子どもたちによるeスポーツ大会が開催されました。合同会社とびらの向こうの発表によると、定員20名の小さな会場に40名近くが詰めかけ、笑い声と歓声が響き渡ったといいます。高額な機材も、広大な施設もいらない。この試みが示す可能性に、少し胸が熱くなります。

©合同会社とびらの向こう

「草eスポーツ」という発想

eスポーツと聞くと、光るゲーミングPC、大型モニター、プロ選手——そんなイメージが浮かぶ方も多いのではないでしょうか。実際、子どものゲーム利用に関する調査では、家庭用ゲーム機(Nintendo Switchなど)の利用率が65%に達する一方、PCゲームはわずか8%にとどまっています。デル・テクノロジーズが2023年に実施した調査でも、ゲーミングPCの所有率は6%という結果でした。

つまり、eスポーツの「主戦場」であるPCは、大多数の家庭にとって縁遠い存在なのです。この現実を「機材格差」と捉え、あえてSwitchだけで参加できる大会を設計したのが、合同会社とびらの向こう代表の牧田康之氏。同氏はこの取り組みを「草eスポーツ」と呼んでいます。

草野球や草サッカーのように、特別な装備がなくても誰でも参加できるスポーツの原風景。それをデジタルの世界に持ち込んだわけです。しかも会場は、地域の駄菓子屋「まほうの駄菓子屋 南チロル堂」。専用アリーナではなく、子どもたちが日常的に出入りする場所を選んだことに、この企画の本質が表れているように感じます。

ゲームで英語を「叫ぶ」子どもたち

今回の大会でもうひとつ注目したいのが、株式会社コロイドの協力で導入された「英語縛りルール」です。ゲーム中のコミュニケーションを英語に限定するというもので、英会話教室とはまったく異なるアプローチといえるでしょう。

子どもを持つ保護者の間では、ゲームに対する不安が根強く存在します。依存症への懸念、視力低下の心配、家族との会話が減るのではないかという恐れ——こうした声は調査データにも如実に表れています。ゲームは「勉強の敵」であり、できれば遠ざけたいもの。そう感じている方は少なくないはずです。

しかし、この大会では真逆のことが起きました。最初は恥ずかしがっていた子どもたちが、勝つために、仲間に伝えるために、必死で英単語を叫び始めたのです。保護者がその姿を「目撃」できる設計になっていた点が秀逸でした。データや理屈で「ゲームにも良い面がありますよ」と説得するよりも、わが子が夢中で英語を使っている光景を目の当たりにする方が、はるかに説得力があるのではないでしょうか。

トラブルが生んだ「共助」の風景

当日は想定以上の接続負荷により通信トラブルやブレーカーの遮断が発生し、進行が1時間以上遅れるアクシデントもあったとのこと。オンラインの大会であれば、参加者が次々と離脱してもおかしくない状況です。

ところが、この駄菓子屋では誰一人帰らなかった。マッチングできない子がYouTube配信の手伝いに回ったり、友だちを全力で応援する側に立ったり。最終的には会場全体から「もう一回!」というアンコールの声が沸き起こったそうです。

このエピソードは、物理的に同じ空間を共有することの力を改めて教えてくれます。画面越しではなく、隣にいるからこそ生まれる「共助」。デジタルとフィジカルが交差する場所に、コミュニティの新しいかたちが芽吹いていました。生駒市市議会議員の山下かずや氏も視察に訪れ、子どもたちの可能性を実感したといいます。

「好き」が世界への扉になる

eスポーツの振興というと、専用施設の建設や高額機材の整備、プロ選手の育成といった「トップダウン型」の施策が注目されがちです。けれど、この奈良の小さな駄菓子屋で起きたことは、まったく逆のベクトルを示しています。すでに地域にある場所と、すでに家庭にある機材。その掛け合わせだけで、子どもたちの目が輝き、保護者の認識が変わり、地域のつながりが生まれた。

牧田氏は「ゲームは、つながりの道具であり、笑顔の入口」と語っています。子どもたちの「好き」という気持ちを否定するのではなく、それを「世界とつながる学び」に変えていく。そのために必要なのは、大人が一歩踏み出して寄り添うことなのかもしれません。

消えゆく駄菓子屋が、デジタルネイティブ世代の新しいコミュニティハブとして息を吹き返す。そんな未来が、もうすでに始まっているようです。同社は今後、この「草eスポーツ」モデルを全国に広げるべく、スポンサーや共催パートナーを募集しているとのこと。次にこの熱狂が届くのは、あなたの街の駄菓子屋かもしれません。

Top image: © 合同会社とびらの向こう
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。